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ALICE & SIX アポカリプスラジオ

作者: 雅 清
掲載日:2025/12/24

別のとこで公開していたSF小説です。ほんの少し表現を変えてあったりします。

「皆さん、こんにちは! 『ブロッサム・ラジオ』にようこそ。さっそく音楽を、と行きたいところですが。どうやら天気はご機嫌斜め! でも大丈夫。そんな気分をぶっ壊すナンバーを用意したよ! マリア・レニムの『私はギターで』です」




 私がマイクのスイッチを切ると替わりに陽気な音楽が電波に乗りだしていった。ここはラジオ局、私はそのラジオDJ。人が運営する最後のラジオ局だ。

 百年くらい前に流行った歌を口ずさみながら、カップへとコーヒーを注いでいく。昔のラジオDJが曲の間に何してたかは知らないけども、これが私の日課だった。


 曲を紹介して、少しお話しして、また曲を流す。リスナーがどれ程いるのかは知らないけども、最後の人間DJとしてそれなりに有名なのだ。

 どうして最後なのかって? それは人間が絶滅危惧種になっていしまったから。原因はよくわかってない。


 最初にカエルや魚たちが消えて。そのあと一時的に虫と一部の鳥が増えたりしたけどすぐに消えていった。残ったのは植物だけ。偉い学者さんが言うには遺伝子が滅びへと向かっているとか。


 それから人間も徐々に減っていった。みんなで食い止めようと頑張って……最初は「生命を冒涜するな!」とか「神への冒涜だ!」と言っていたけど「ええい! それどころじゃねぇ!」っていろいろやった。結果は絶滅をゆっくりと先延ばしにしただけで、今や地球上の動物は人間だけになってしまった。


「では今日の最後はガビル・ステイシーの『夕暮れ』にのせてお別れです。ではまた明日」

 ゆっくと音を絞って、リスナーとお別れして今日の仕事を終えた。


 コーヒーのおかわりをいれて、電気を消し、外のベンチに向かう。これも日課。夕暮れの太陽を見ながら、少しずつコーヒーを味わう。私、猫舌だから。


「お疲れ様、シックス。今日も良かったですよ」


 声をかけてきたのはアンドロイドのアリス。見た目は人と全く同じで、このラジオ局のアシスタント。機械の整備とか事務手続き的な事とか。二人だけのラジオ局で、とにかく色々やってくれている。


「でしょ? まぁ私は少し話しただけだけどね」

「みんな言っていますよ。シックスのお話が歴代で一番良いって評判なんですよ」

「ほんとにー?」

「本当、本当」


 私とアリスはラジオが終わった後はいつもこんな会話をしてる。一応は反省会という名目で。


「ねぇ、この前の猫の写真みせて」

「いいですよ」


 アリスが掌を広げると空間に映像が映し出された。

 猫が誰かの腕とじゃれて遊んでいる。猫はもう百年くらい前に絶滅して、私は本物を見たことがない。この腕の人も今はきっといない。


「毛むくじゃらで、丸っこくて……いいなぁ、私も遊びたかったなぁ」

「そうですね、私もです」


 こうしてアリスと一緒に過去の映像とか映画とかを見る。反省会は映画上映会でおしゃべり会でもあるのだ。


「そうだ。シックスにお便りが来ていますよ」

「本当!?」

「本当、本当。今、見せますね」


 そう言って映し出された映像には男の人が映っていて、私と同じで二十代くらいに見えた。


「あー初めまして。僕はヒデオ・トクダ。えーと……第六世代です」

「第六世代!? 私と一緒だ! アリスは第六工場製でしょ? おそろいだね!」


 私達にとって『六』という数字は特別だ。


「そうですね」


 私とアリスは互いに顔をみて笑いあった。


「いつもラジオ聞いてます。楽しくて……その、毎日楽しみにしてます。そ、それでですね。僕……」


 眉をひそめて、なんだか言いにくそうな様子だ。


「僕、明日が誕生日で……六年目の誕生日なんです」


 六年目、そう言ったときのヒデオの伏せた目の端には光るものがものが見えた。


「だから僕の好きな曲をかけて欲しくてお便りを出しました!」


 人間は色々な事に手を出した。肉体の薬物強化に始まって、遺伝子改造、クローン、人と植物のキメラ……。そのなかで唯一残ったのはクローンだけ。でも成功したってわけじゃない。


 私達がそのクローンの中でも最後の世代。クローンは生成からきっかり六年で死んでしまうのだ。原因は不明。滅びに向かう遺伝子には逆らえなかったということなんだろう。

 これでも頑張って伸ばした方なんだけど、もう無理なんだってさ。第六世代以降、新しいクローンは生まれていない。


 だからクローンもそうでない人も、最後の日までのんびり過ごすことにした。長い、長―い夕焼けの時間を私達は過ごしている。


「そっか、誕生日なのか」

「そうですね」

「こりゃ、ヒデオさんの為に気合い入れないとなー!」

「期待してますよ」

「えー、なんかそう言われると緊張する」


 少し笑って、二人で静かに沈む太陽を見送った。


「――では次の曲……の前に! 今日は実はですね。リスナーから久しぶりにお便りを頂きました! お名前を出しても良いという事なので言いますね。第六世代のヒデオ・トクダさんです。では読みますね――」


 本当を言えばラジオの電波に乗せて映像を流すことなんて簡単だった。せっかくなら特別な演出を、ってね。でもそうするのはなんだか違う気がした。ラジオらしさがないと思ったから。

 みんな私の声を聴いてくれている。ヒデオさんも私の声が好きだと言ってくれた。ならやっぱりそのまま私から伝えるのが良いと思った。


「――それではリクエストの曲いきますね。一世を風靡したと言う三人グループ! ダイナー・ダイナーの『スリーキャット』です」




 私達は放送を終えて、いつものベンチに座っていた。


「どうだった? 今日のラジオ」

「とても良かったですよ」

「間に合ったかな?」

「きっと大丈夫です。それにヒデオさんの方が時間も正確にわかってる筈ですから」

「そっか……、そうだよね」


 私は思い切って前から聞いてみたかった質問をぶつけてみる事にした。


「ねぇ、アリスは……。私が六回目の誕生日を迎えたら、いなくなったら何する?」


 アリスは口を開け、何も言わずに閉じた。


 困った質問だと思う。アリスは悩んで言葉に迷っているようだったけど、観念したのか口を開いてくれた。


「そうですね……旅を、してみたいですね」


 そう言ってアリスは掌から画像を映し出した。赤い岩の前で睨み合って立つ二人の男。怪物のいる大劇場。輝くオーロラの前で抱きしめあう恋人。どれも映画でみたシーンを切り取ったものだった。


「映画がどんな風に撮影されたのか、どんな技術が使われたのかはアカシック・アーカイブでわかります。でもその時の現場の気持ちまではわかりません。空気感や緊張感とか。作品への思いとか。それを感じてみたいんです。だから好きな映画の場所に行ってみたいのです」


 映画のことを話すアリスの顔はとても綺麗だった。好きなことを思う気持ちに人かアンドロイドか人かなんて関係ないって彼女の顔を見るたびに思う。


「ラジオのアシスタント……辞めたい?」

「そんなことないです。ラジオは好きですよ。あくまでも……先の話ですから」


 アリスは少し慌てた様子で答えた。


「シックスはラジオ以外に何かしたいことは無いのですか?」

「私? うーん……。ラジオはオリジナルがやりたかった事だしなぁ」


 自分に質問が飛んでくるのは考えてなかった。


「私はサクラ・ロクジマの第六世代としてじゃなくて。シックスとしての答えを聞きたいんです」


 なんだかそういうアリスの顔はいつもより凛としていたように思う。

 私の本当の名前はサクラ・ロクジマ。ロクジマで第六世代だからシックスって愛称がついた。オリジナルは私がクローニングされたときには既にいなかった。ラジオDJをやることが夢だったそうで、第一世代からずっと私達はそれを引き継いできた。


「クローンとしてじゃなく、自分の人生を生きても良いと私は思うのです。このラジオをもう……三年。歴代のサクラ達も含めればもっと。みんなラジオが好きで……優しくて、でも……やっぱり……」


 歴代のクローンはみんなここでDJをしてきた。誰もがオリジナルの意思を継いでやってきた。それをアリスはずっと見続けてきた。


「ごめんなさい。ただのアンドロイドがこんなこと言って……」

「ううん、いいの。ありがとう」


 そっと抱きしめるとアリスは私の腕の中で震えていた。

 それからしばくしてそれぞれの部屋に戻った。おかしい。いつもは直ぐに眠れるのに。アリスの言葉が頭の中で繰り返された。私の本当にしたいこと。サクラ・ロクジマじゃなくて、シックスとして……。




 朝、私は早起きをすると休眠中のアリスを叩き起こした。


「アリス起きて!」


 アンドロイドも寝ぼけるようで、なんだかぼうっとしている。


「突然だけど『ブロッサム・ラジオ』は終わりです!」

「え? 終わり……?」


 アリスはハッとして目を開いた。大きくて綺麗な目で私を見上げている。


「アリスに好きなことをして欲しいって思った。だから終わり」

「そんな……。じゃあシックスはどうするのですか? そんなの駄目です」


 アリスは困惑し、私の服の裾を掴む。私はその手をとった。


「私もついて行くから。あ、行き先はアリスが決めてね。人のお世話をするのがアンドロイドの務めなら、旅をしててもできるよね」


 なんだからよくわからないと。アリスは私の話についていけていないようだった。


「私の為に無理しないでください。ラジオを続けてください」


 アリスは今にも泣きそうだった。心の底から私のことを思ってくれている。でもなんだか誤解がうまれているような? いけない。アイディアを思いつくと説明が疎かになる癖がでてしまった。


「ごめんごめん、辞めるのじゃなくてラジオは新しくなるんだよ。移動式ラジオ局に!」

「移動式?」


 アリスはポカンとした顔をした。


「えっとほら、アリスのアーカイブになんかあるでしょ? トレーラーに機材積む方法とか、その……移動式にするための色々! でね、ロゴはもう考えたんだよ」


 私は画用紙を広げて見せた。『Radio ALICE&SIX』背景には桜の花をあしらった。


「旅をしてラジオもする。これが私のしたいこと。嫌……かな? 急だも――」

「――ありがとう、シックス」


 アリスは私を強く抱きしめてくれた。


「良いですね。凄く良いと思います」

「ほんとにー?」

「本当……本当に」


 目に涙が滲んでいるようだった。


「じゃぁ今日の放送でさっそく告知しようよ! 放送三周年、解体&新生特番! とか言ってさ! 放送までに時間はあるから……荷物の準備とかも――」

「――私がやるんですよね。台本の変更とかそのた諸々の手続きとか」

「そこをお願い!」


 手を合わせてお辞儀した。顔を上げるとアリスは笑っていた。


「わかってますよ、シックス」


 そうしてまた二人で笑った。

 たぶん人が居なくなっても、アンドロイドはずっと生きていくんだと思う。朽ちない機械の体に暖かい心を持って、人という言葉が、いずれ彼女達を指すようになるまで、ずっと、ずっと。


 すごく残酷だ。

 だからこそ。今、私達はこの長い夕焼けの時代を一緒になって、精一杯楽しもうとしている。好きなことをしながら。いろいろな好きを共有しながら。いっしょに好きを探しながら。

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