92話 帰宅後
みんなで昼食を摂ってから弟も含め家族が無事日本に帰り、魔法を解除したドアの前でため息をついてしまったのは、仕方のないことだと思います……慌ただしかった。
「……リオウ」
振り返ろうとしたところを、後ろからディーに抱きすくめられる。
大きなディーの体だから、わたしなんかはすっぽりと納まってしまう。
「そういえば、ディー、仕事はどうしたんですか?」
顔を上げて直ぐ近くにあるディーを見上げると、唇に触れるだけのキスが落とされた。
「今日は仕事を中抜けして様子を見に来ただけだ。 無事にシューヤを連れ戻せたならそれでいい」
わたしがちゃんと秀也を連れ戻せるかどうかを確認しに来たってことか。
あれ? でも…。
「ディー、イライアさんに秀也のお守り頼んでたんですよね?」
「ああ、ロットバルド隊長(※六番隊隊長)に手配してもらった」
じゃあ確認なんて要らないんじゃ?
仕事の中抜けだというだけあって、ディーは直ぐに席を立ち玄関へ向かった。
「リオウ、当分の間、王宮での仕事はいい」
「…突然なんですか?」
「あと、イストーラには行くな。 カディのところへもだ」
一方的に言われ戸惑うわたしを残し、ディーは王宮へと戻っていった。
イストーラは……情勢がまだ不安定なんだろう。
いくら悪い人たちは捕まえたからって、直ぐに何もかも良くなるなんて事はないだろうし。
あちらの国は、随分と荒れているらしいから、国を回復させるのはとても大変だろうし。
ぼんやりと空を見上げる。
日本と同じ、青い空に白い雲が浮かんでいた。
この空は、日本へは続いていないけど、イストーラには続いている。
楓もこの抜けるような空を見ているのかな。
そういえば、わたしはこの世界で生きることに決めたけど、楓はどうなんだろう?
楓も居てくれたら心強いけど、楓の家族がウチの家族みたいに変わ…おおらかな性格だとは限らないし……確か、楓の実家ってお医者さん、だったような……。
もう何日も、こっちに居るけど、大丈夫なんだろうか。
それとも、どうにかして行き来してるんだろうか?
秀也のことばっかりで気にしてなかったけど、なんだか問題のあるイストーラに楓を一人残してきて良かったんだろうか。
気になる。
でも、ディーに釘を刺されてるし……。
空を見上げれば、上空の風は強いのか白い雲が形を変えながら流されていった。