91話 第二回
秀也の中の”良心”という名の感情その他で行動を制限し、秀也の手綱を握りつつ護衛してくれていたイライアさんと別れ。
鎖で簀巻きにした秀也を連行して帰った居間には……。
「あれ? お父さん?」
ディーとグラスを傾けるお父さんが居ました。
テーブルには、母さんが作った保存食という名のつまみが。
まぁお父さんはあのガタイなのに下戸なので、グラスの中身はワインと見せかけたぶどうジュースだと思うけど。
「まずは、扉を解除しておけ」
冷静にディーに言われて、慌てて繋げっぱなしだったドアの魔法を解除する。
「では、第二回家族会議を開催いたします」
唐突にそう切り出した母さんに、無理矢理居間のテーブルの周りに座らされる。
簀巻きのままだった秀也の鎖も外しておく。
「今回の議題は、こちらに嫁に来た後の良子の日本での立場です」
「……嫁は確定なのか…」
ぼそりと呟くお父さんの台詞は、全員にスルーされた。
「はい!」
筋肉痛で動くのも辛いはずなのに元気に挙手をした秀也を母さんが指名する。
「海外に留学ってことにするのは? すげーベタだけど…」
「確かにありがちだけど、悪くないんじゃない?」
「……親族にもそれで通すのか? じいさんばあさんにはなんて言う、いつまでも留学だなんて言っておけないだろう」
隣町に住むおじいちゃんとおばあちゃんが思い浮かぶ。
「義父さん達にはいっそばらしたら?」
「…腰をぬかすぞ…」
お父さんに同感です。
「だから、外国の旦那さんみっけて、そっちで暮らしてるってことでいいじゃない? ひ孫でもできれば大喜びするわよ」
「…………ひ孫…」
黙りこんでしまったお父さんを余所に、お母さんと秀也とで話は進み。
結果。
「良子は海外に留学中に現地の男性と大恋愛の末、そのまま入籍と相成りました、と」
ぱちぱちぱち、と秀也が拍手。
いいのかなぁそんな簡単な話でと呟けば、隣にいたお父さんに頭を撫でられた。
「まぁなんとかなるだろう。 遠いが近い場所だ、いつでも顔を見せに来い」
”帰って来い”とは言わないお父さんに、恥ずかしさを感じながらもしっかりと頷いた。