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89話 決着

開始して5分程経過



 ガキンっ


 金属がぶつかる重い音がして、わたしに蹴りを入れにきた秀也は鎖に跳ね飛ばされるが、器用に空中で体勢を立て直すと跳ね飛ばされた勢いを使ってわたしが作った障壁を駆け上がり、振り向きざま飛礫つぶてを弾いてくる。


「ふんっ!」

 鎖を一振りしてそれを弾き飛ばす。

 操駆してその手を秀也に向ける。

「”氷の矢”」

 掌から連続して20センチ程の長さの氷の矢が飛び出し、障壁を走る秀也の後ろを追うように被弾する。

 勿論わざと外しているわけだけど(実弟に本気でヤバイ攻撃を仕掛ける程鬼畜ではない)。

 見物人たちは「きゃぁ」とか「おぉっ」とか言って目の前に迫る攻撃にびびったり、興奮したり。

 

「やっぱ、やるなぁ、ねぇちゃん! だが、俺だって!」

 走りながら懐から小石を出す秀也。

 また、飛礫を弾いてくるのか?


 一応警戒して一方の鎖で飛礫を弾き、もう一方を自身の頭上から円錐状に回転させて防御を取る。


 飛礫を弾いた途端、飛礫が破裂して破片が散弾のように飛び散る。


 ……って、防御を展開してなかったら、ねぇ?


 円錐に回転する鎖の前にばらばらと散らばる飛礫の欠片。




 走って逃げ回る秀也を見据えながら手を上に掲げ、鎖が意思を持つかのように空中に浮かせる。


 せめてもの情けに、華々しく散ってもらおう。


 隠してあった、あと2本の鎖も大盤振る舞いで戦闘に参加させる。

 さながらヤマタノオロチの如く空中で鎌首をもたげる3本の鎖。


 走り回っていた秀也も、腹を括ったのか立ち止まり腰を落として対峙する。

 

「さぁっすが、姉ちゃん…っ、悪の魔王の如き強さだな」


「……もうそろそろ、いい頃合だろう?」

 焦りの色を濃くする秀也に、口端を上げて見せる。


 賭け事は嫌いだが、道楽の少ないこの世界では姉弟喧嘩こんなことでも良い気分転換になるのだろう。

 しっかりと秀也の仕組んだ余興に乗ってやったんだから、もうそろそろフィナーレとしていいだろう。



 派手派手しく舞い上げた三本の鎖を絡め、巨大な龍の頭を作り出す。


「ちょ!! まって! 何それ!? 反則ーっ!!!!」


 問答無用、巨大な龍は大きく口を広げて、すくみ上がる秀也を丸呑みにするかのように、上空から地面にダイブした。




 もうもうと上がる土煙。


 さっきまでは悲鳴や歓声が上がっていた観衆が、シーンと静まり返っている。



 障壁内の土煙がおさまると、鎖で蓑虫のようにぐるぐる巻きになった秀也が、元気に地面でのたうっている。


 観衆から安堵のため息と、そして派手な余興にたいする大きな興奮が広がっていった。

(賭けの勝ち負けで悲喜交々ひきこもごもあるみたいだが)



 ゆっくりと鎖の簀巻きになっている秀也に近づく。


「くっそー! まだ、奥の手が残ってたのにっ!!」

 簀巻きのまま元気に転がってる…。

「姉ちゃんに勝とうなんて10年早いんだよ。 はい”魔法解除””魔法禁止”」

 操駆して、秀也に掛ける。

「え、えぇぇ!? なにそれ!?」

「お前の掛けた魔法を全解除して、魔法を使えなくした」

「うぇっ! マジかよ!? って、っく! くそっ! 体が動かんっ!!」

 さっきまでは鎖で巻かれてても、元気に転がっていたがそれもできなくなったことに気づき、慌てる秀也だった。

 この分だと、筋肉痛必至だなこいつ。

 肉体強化しつづけてる間はいいだろうけど、魔法を解除してしまえば、ドーピングされてた筋肉が戻るわけだから……。


「うわっ!! きたっ…っくぅっ。 想定してたけど、キッツい」

「姉ちゃんの手を煩わせた罰ってところだな」

 筋肉痛に顔を引きつらせる秀也の鎖を解いてやり魔法で作った障壁を解除すると、母さんが歩いてきて、別方向から一人の女性が駆け寄ってきた。

 はて…あの背格好……。


「シューヤ! 大丈夫!?」

 起き上がって服に付いた埃を払っていた秀也に、心配そうに声を掛ける女性。

 あれ? この声…。

「エリーシャさん。 俺は大丈夫だから」

「シュ…シューヤが、負けるなんて……っ」

 ぼろぼろ涙を零して秀也に縋りつく女性の髪を、ゆっくりと撫でる秀也。


 ん? んん?? なんか、引っかかるような……。





 少し離れたところに移動して、ことの成り行きを母さんと見守る。

「これは、あれかしら……」

「あれ、って?」

 とりあえず、引っかかりは保留にして、母さんの言葉に首を傾げると、ちろりとこっちを見た母さんが小さくため息を吐く。

「いずれあの子も手放す覚悟をしなきゃ駄目かしらね、ってことよ。 それより、良子、秀也あのこのこと責めないでね?」


 そう前置きし。


「実はね、秀也にこっちの世界の様子を探ってもらうように頼んだの」

 ……探る?

 首をひねるわたしに、母さんが微苦笑を浮かべる。

「いくらディーさんがしっかりした人でも、どんな所かわからない場所に、大事な娘を嫁になんてやれないでしょ?」

 よ、嫁に、やる、って、ええと、ええと。

「だから、秀也にこの世界は良子が暮らしていける場所か、見てもらってたのよ。 秀也の安全はディーさんにお願いしてあったし」

 え、えぇ?

「もし、キケン過ぎて無理だと思ったら、向うの世界になんとしても戻してたわ。 高校も休学扱いにしてもらってるから、復学もできるし」

 えぇえ!? そ、そうだったのか…。

「学校通いたい?」

 聞かれて、躊躇った後首を横に振る。

 そんなわたしを見て母さんは少し寂しそうな顔をして頷いた。


「安全な世界とは言いがたいわね。 でも、貴方のその魔法があれば、向こうで暮らすのと同じくらい快適で安全な生活を得ることができるってわかったわ」


 うん、母さんの魔法の使い方を見て、わたしもそれは思った。

 上手くすれば、向うの世界より快適に生活できそうだって。


 そう言ってから母さんは一呼吸置いて、口を開いた。



「あんたが幸せなら、それで良いのよ。 生きて、幸せになっててくれたら、それでいいの」


 そう言って、照れくさそうに笑う母さんに、少し吃驚する。


「死んでるかも知れないと思ってたのに、こうやってピンピン生きてくれてる。 私達にしてみれば、それだけでめっけもんなのよ」


 照れ隠しでか頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。


「だから、アンタが、ディーさんの事が好きなら結婚したって構わないの、異世界婚上等だわ。 私もお父さんも反対はしない、それがアンタの歩むアンタの道なら」


 わたしの歩むわたしの道……。

 一瞬硬直したわたしに気づいてか気づかずか、母さんは閉じた口をもう一度開く。


「道は、アンタの歩いた後にできるのよ? 勿論自分で選んで、選んで、歩くこともできるけどね。 でもねそんな小難しく考えるまでもなく、アンタが歩けばそこがアンタの道なのよ」



 母さんが力強くニッと笑った。






 …母さん、猪木の”道”好きだもんなぁ………。

 

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