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86話 フラストレーション

 ずりずりずり……と押し出される感覚で目が覚めた。



 どうやら扉の前で、眠ってしまっていたようで。


「どうしたんだ!? リオウ」

 強引にドアを押し開けて入ってきたディーが、寝転がっていたわたしを抱き上げた。

 その腕の中から身を捩って逃げ出す。


「リオウ?」

「ご、ご飯用意します!」


 台所に逃げ込もうとしたところを捕獲された。


「涙の跡がついたままだ。 何があった?」

 抱き上げられ、抱きしめられる。

 硬い両肩に手を突っ張って逃げようとするが、うんともすんとも言わない。

 足をばたつかせても、身を捩っても、筋肉質な太い腕からは抜け出せなくて、それがまた悔しくて。

 

 勝手に零れ落ちる涙を、ディーが吸い上げる。

 何も言わず、抱きしめたまま。



 悔しくて、悔しくて、哀しくて、悲しくて、こんなに近くに居たくなんて無い!



「ディー、離してください」

 飽きずに涙に唇を寄せるディーの顔を両手で挟んで距離をとり、なるべく冷静な声を出す。

「嫌だ」

「嫌だじゃないです。 下ろしてください」

「嫌だ」

「下ろしてください!」

「嫌だ」

「下ろしてと、言ってるじゃないですか!」

 冷静になろうと努めていた心が折れ、感情のままに怒鳴る。

 ガツン、と目の前にあるディーの盛り上がった肩に拳を振り下ろす。

「嫌だ」

 言ってきつく抱き寄せるディーの肩といわず背中といわず、手当たり次第に拳を振り下ろす。


 何度も何度も、詰って、ディーを殴りつける。

 その拳をディーは何も言わず全て受け止めて…受け入れる。


「ディーの馬鹿っ! ディーなんか嫌いっ! ディーなんかっ!! ディーなんか…っ」


 結局、硬い腕から逃れることは叶わず、わたしは殴りすぎて熱を持った両手をディーの太い首に回して子供のように大声を上げて泣きじゃくった。



 名前をつけられない、荒れ狂う胸の内にある感情が、名を付けられないが故に発散されずに胸を焦がし涙を溢れさせ、嗚咽となる。




 やり場の無い怒り、憤り、哀しさ、悔しさそんなごちゃごちゃの感情。







 泣き疲れてぐったりとディーに体を預けていた。


 そっと髪を撫でてくる大きな手を感じ、恥ずかしくて顔を伏せていた首筋にぐりぐりと額をこすり付ける。


「……ディー、ごめんね」

 ため息交じりの謝罪をディーの首筋に零す。


 沢山八つ当たりした。

 沢山叩いた。

 少し、すっきりした。

 まだ……気持ちの整理はつかないけれど…、少しだけ冷静さが戻った。



 おずおずと体を起こし、散々叩いたディーの隆々とした肩を撫でる。

「痛かった?」

「平気だ」

 肩を撫でていた手を取られ、その手の赤くなっている部分を見咎められる。

 そして、その手に労わるように唇が落とされる。

「お前の気が晴れるなら、いくらでも叩かれよう。 だが、お前の手が痛むのが問題だな」

「…ごめんね、ディー」

 謝罪を込めて、ディーの唇に唇を押し当てる。

 唇を離すと、その唇をディーの指に撫でられた。

「謝るな、リオウ。 お前がなじるのは当然の権利だ。 それに、お前に嫌われているとしても、私はお前を手放せない」


 強い視線と宣言と共に、今度はディーから唇を塞がれた。


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