84話 家族会議
あれからなんだか機嫌の良くなったような、ディーと一緒に町へ買い物へ行き冷蔵箱を満たし、2人で台所に立ち(!?)夕飯を作って食べ、来るべき時に備えた。
家全体に”侵入禁止”の魔法を掛けて万が一に備えてから、もう一度操駆し、第一回家族会議へ向かうべく、自室のドアに魔法を掛ける。
「”扉よ、日本のわたしの部屋へ繋げて”」
テンションが低めなのは、しょうがないと思います。
ドアを開ける前に、もう一度後ろを振り返り、正装仕様のディーを見つめる。
…うん、確かにとてもカッコイイんだけど!
普段の制服よりもストイックさが増して、いいんだけど、だけど…。
わたしもディーの命令によって、淡いオレンジ色のワンピースを着ている、カツラはつけないで伸び気味ショートのまま……いつもの従者服の方が動きやすいし、家族の前でワンピースなんて恥ずかしいんだけど、ディーに押し切られた。
「あ、あのね、ディーやっぱり、結婚とかって早い気が……」
ひぃ! 絶対零度の視線っ!!
ねぇ本当にわたしの事好きなんですか……orz
「さぁいくぞ」
腰に腕を回されて強制連行。
「や、やっほぉ……お久しぶりデス」
居間のドアを開け、こそこそっと顔を出してそう言うと、ソファに座っていた父上が太い眉をこれでもかというくらい吊り上げづかづかと近づいてきて。
ごすっ、と脳天に拳骨を食らう。
「どんだけ心配したと思ってんだてめぇ」
どこの組の人ですかってぐらいの迫力の父上の前に自主的に正座し、先程脳天に食らった久しぶりの拳骨に涙目になりながら平身低頭。
「申し訳ありませんでしたっ」
「謝って済めば警察はいらねぇだろうがよ」
低い声で恫喝するお父さんに、ひたすら小さくなる。
「まぁまぁ、向うからの連絡手段が無かったんだから仕方ないでしょう? あらあら! いらっしゃい! 狭いところですけど、どうぞ入ってください。 ほらほら、良子、そこ邪魔よ避けて、避けて。 って、そういえば言葉、通じるのかしら?」
わたしの後ろで成り行きを見守っていたディーに気づいた母さんが声をかけ、ディーはにっこり微笑んで(!?)頷いた。
「はじめまして、デュシュレイと申します」
正装姿のディーの似非紳士っぷりに愕然とするわたしを尻目に、ディーは進められるままソファに座り、お父さんも母さんの指示で指定席である一人掛けのソファに落ち着いた。
「リオウ、いつまでもそこに座っていたら腰が冷えますよ」
ディーが優しく(!!)わたしに声を掛ける。
な!? んなっ!?
「ぇ、あ、ディ……」
ディーがわたしに敬語!? 槍!? 槍が降るの!?
心の声が聞こえたのか、両親がディーから視線を外した瞬間、似非紳士が外れて素の顔で”余計なことは言わずに、さっさと隣に来い”と以心伝心の指令を受けました。
怖っ!! なにより、似非紳士っぷりが怖っ!!
しゃっきりと立ち上がり、速やかにディーの隣に納まる。
「で? でゅしゅれーさんと言ったか」
「ディーと呼んでいただいて結構ですよ。 こちらの世界だと発音し辛いようですので。 私も、彼女の名前を発音し辛いので、リオウ、と呼ばせて貰っています」
似非紳士のディーがなんとも困惑顔のお父さんに愛想良くそう言う。
「わかった、ディーと呼ばせてもらおう。 で、あんたが娘を保護してくれたんだな、礼を言う、ありがとう」
お父さんはそういうと、ディーに向かって深く頭を下げた。
「いえ、私は当然の事をしたまでです、礼などやめてください」
ディーはそう言ってお父さんの頭を上げさせ、その上で、お父さんと向き合うように姿勢を正した。
「私の方こそ、本日は不躾なお願いをしに参りました。 娘さんを私の伴侶とすることをお許しいただきたい」
言ったよ…言いましたよ……っ!
脳内が麻痺しているくせに、顔に熱が集まってくる。
誰にも視線を合わすことができずに、じっと絨毯の柄を見つめて暫くすると、お父さんの唸る声が聞こえた。
「んむぅぅ……! だが……良子は、まだ16 「17歳よ、あなた」 17歳だ、結婚なんていうのは、早すぎるんじゃないのか。 見ればあんたは良い所の人間のようだし、その顔だ、引く手数多だろう。 そんな男のところへ嫁に行って、こいつが幸せになるとは思えねぇんだ」
確かにこの似非紳士なディーならいくらでも彼女とかできそうだよね、似非紳士なら……。
しかし不思議とディーの周りに女性の気配が無い…そういえばディーが女性と話してる事自体、見た事が無いかも……。
お父さんから拒絶の言葉を受けながらも、ディーは一歩も引かない。
いかにわたしのことが好きか…(あぁ、自分で言うのキツイ)を説明している。
きつい、きつすぎますよ。
戦線放棄しているわたしは、2人を静観している母さんに目を向け……ふと、今更ながらに気になったことを、こっそりと母さんに耳打ちした。
ところで、秀也(愚弟)はどこにいるの? と。
「あら、そういえば、居ないわね。 部屋に居るはずだけど、こんだけ騒がしかったら普通降りてくるわよね?」
!?
「……部屋に、居たんだ?」
思い浮かんだ予想に顔が引きつる。
奴の部屋は、わたしの部屋の隣。
そして、前回ヤツは積極果敢に異世界に行こうとしていた。
導き出される結論は。
「あんの馬鹿!! 向こうに行きやがったっ!!!!!」
わたしの怒声にぎょっとした男2人は放置!
ダッシュで階段を駆け上がり、一応弟の部屋を確認。
居るわけが無い!
閉まっているわたしの部屋のドアを開ける。
繋げっぱなしだから、もちろんドアをくぐればディーの家の居間。
照明魔法を付け部屋を確認するが、やはり、奴は居ない。
思わず鋭い舌打ちが洩れる。
「向うに行く前に”侵入禁止”の魔法掛けておいたから、家の中にいるはずなのに…」
部屋を見回しながら呟くわたしに。
「あら侵入禁止だけなら出て行くのは自由なんじゃないの?」
「母さんっ!?」
「……まさにファンタジーだな」
「お父さん!?」
驚くでもなく、むしろ少し楽しそうに部屋を見回している両親。
「何しに来たのっ!!」
顔を引きつらせるあたしに、ディーが応える。
「一度こちらを知っていただいたほうが、ご両親も安心できるだろう」
さり気なく肩を抱き寄せられ見上げたディーは、似非紳士スマイル。
くそう! ディーだって理解してるのに、思わず、どきっとか! どきっ!とかっ! うきゃぁ!
別に似非紳士がどうのじゃなくって! あまりにも、いつもと違うのがぁぁぁ!!
熱よ! 顔に集まるなっ!
目下の緊急案件は秀也の捜索なんだからっ!!