82話 夢の中で:母
「あら、良子! 元気そうじゃない!」
「か、母さん!?」
動揺し身を起こすと、あれ? 自宅のリビングだ。
つい先日見たまんまの、そのリビングのソファにわたしは寝そべっていたらしい。
お? 胴回りがごろごろすると思ったら、鎖が巻きついたまま……。
脳裏にイストーラでの出来事がよぎり、うなだれてしまった。
きっとここ夢の中だよね、あの状態で眠る前にきっと望んだんだろうなぁ。
「どうしたの? 頭痛そうにしちゃってー。 痛み止めでも飲む?」
わたしが居なくなる前と変わらない母さんの態度がありがたいです。
久しぶりに会う母さん、全く変わらずお元気そうではあるんですが。
「大丈夫。 それより、母さんこそ元気? 仕事、残業続きなんでしょ?」
ソファに座りなおしたわたしの横に、職場の制服姿の母さんも腰を下ろす。
「元気よ? 月末だったから残業多かったけど、それはほらいつもどおりだし。 それより、秀也から聞いたけど、何がなんだかわからないわよ。 あんたちゃんと生きてるの?」
……orz
「生きてるよ、かなりぴんぴん、元気に」
やっぱり秀也に説明を任せるだけじゃ駄目だったか…。
「そう、よかった」
そう言って笑う母さんに、なんだか泣けてきた。
「あの……母さん、心配掛けてごめん、なさい」
言葉が喉の奥からせり上がり、ポロリと零れる。
「あんたが元気ならそれで良いわよ」
わたしの頭を抱き寄せて、撫でてくれる。
懐かしい匂いを胸いっぱい吸い込む。
「んで、今どこに居るって?」
ずばっと核心に迫る母さんに、一瞬どう説明すればいいか迷う。
「正直に答えたほうが、後が楽よ?」
ニッコリ笑う母さん。
確かに今適当に取り繕うより、本当のことを言ったほうが後々問題が少ないかも。
「えっと、じゃ、本当の所を話すけど…。 今わたしが居るのはイフェストニアって言って、地球以外の世界? に来てるんだ」
「…へぇ? それは、地球以外の星と言うことかしら?」
突っ込まれて首を傾げる。
「え? っと、よくわかんないけど、異なる世界? 魔法が使えるし、電気が無くて、むかしの西洋みたいな感じ?」
「要領得ないわねぇ。 とりあえず、現代人のあんたが生きていられるってことは、平和なのかしら?」
説明が下手ですみません。
「お、概ね、平和、です」
「概ね、ねぇ」
思案するように、繰り返す母さんだったが、すぐに先を促す。
「で、誰かに保護されてるって秀也が言ってたけど、それはどうなってるの?」
あいつ、どこまで、どんな風に説明したんだ…。
「えっと、はい、保護? されてます…」
「……隠し事は為にならないわよ。 どんな風に保護されているのか教えて」
か、母さん…。
「え、えぇとですね、どう言ったら良いか…。 端的に言いますと…、いずれ結婚したい、みたいな?」
「なるほど」
なるほど?
「秀也の言っていた、強面系イケメンっていうのが、その人ね?」
orz
だから、どこまで、どんな風に伝えたんだ、あの馬鹿。
「魔法が使えて、平和で、イケメンが旦那で…あんた、将来安泰じゃない?」
は、母上?
「はっきり言うけどさ、今現在日本の就職率って最低じゃない? それなら、そっちで永久就職するのも有りじゃないかしら。 秀也の話に寄ると、そっちからこっちに来ることもできるそうじゃない?」
「う、うん、行き来はできるよ」
「わりと簡単に?」
「か、簡単に…」
頷くと、にんまり顔のお母さん。
「じゃあ、一度戻ってきな。 家族会議を開きましょう!」
か、家族会議ですか…?
いまだかつて我が家で開かれたことが無かったように思われますが。
その後、ノリノリな母さんの指示で、第一回家族会議が今晩開催されることになった…。
そういえば、なぜ、真昼間なのに母さんに夢が繋がったかといえば、母さんが職場でお昼寝中だったからとの事。
会社員って昼寝も可能なんだ……?
母さんが居なくなった(多分起きたんだな)後、一人リビングに取り残されたあたしは、未知なる家族会議に思いを馳せ、深くため息を吐くのだった。