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81話 理由

 王様の爆弾発言で脱力していたが、気を取り直して小さく挙手し、発言する。


「ということは、わたしたちのやる事は終わったんですね? 宰相を捕まえて、魔法を使えなくしたんだから。 もう帰ってもいいですか」

 その台詞を受けて王様が何か言おうとしたところに、部屋のドアを激しく叩く音がした。

 ……借金取りか何かを思わせるような激しさに、王様も眉をひそめ、無表情な聖騎士たちにも緊張が走った。

 王様に促されて、ドアの側にいた聖騎士がドアを開けると。

 転がるように数名の男性たちと、宰相付きの聖騎士が押し入ってきた。

 ドアを開けた聖騎士が慌てて押しとどめるが、どうやらそれなりに位のある人達らしく、強く出ることはできないようだ。

 おろおろと王様を見れば、一瞬愉快そうに口の端が動いたように見えたんだけど…気のせいだよね。

 王様はソファから立ち上がると侵入者達と対峙した、勿論両者の間には王様の聖騎士達が毅然と立ちふさがっている。

「何用か。 貴公等を呼んだ覚えはないぞ」

 王様がそう言うと、身なりの良い男達が王に詰め寄る。

「陛下! 宰相閣下が賊に襲われたというのは本当でございますか!!」

「公っ! アレに居るのが賊でございます!! 直ちに捕らえいつものように拷問に致しますっ!!」

 宰相の聖騎士が、わたしと楓を見つけるなり口角から泡を飛ばし…騎士のようには見えない我武者羅さでこちらに迫ってこようとするのを、先程ドアを開けた聖騎士が間に入って押し留めようとする。

「えぇい邪魔だっ!! 我等の行く手を阻むなら貴様も逆賊とみなす!」

 剣を抜いた宰相の聖騎士に、王様の聖騎士の額に青筋が浮かんだ気がするのは気のせいだよね、こっから見えるはずないよね。

「……陛下の御前だ。 王の命令無く剣を抜く意味をわかっているのだろうな」

「我等を邪魔立てするつもりか!」

「宰相閣下の盾である我等に向かいその言い草、片腹痛いわ!」

 いや、王様の聖騎士の方が格上でしょう……。

 脳内突っ込みが入り、少し冷静になった。

 楓を見れば、彼女も特に恐怖したりはしていないようだ。

「類は友を呼ぶって本当よね。 あの宰相にしてあの騎士ありだわ」

 呟いた楓に、こくこくと頷く。

「本当に懲りない人達だわ、貴族の後ろ盾を連れてくればどうにかなるとか思ったのかしら」

 ああ、なるほど、あの煌びやかな服をきた人達は宰相のお友達の貴族って感じか?

 貴族ってことは、あの人達も魔術師なのか?

 楓はさらっと操駆すると、押しかけてきた人たちを動けなくする魔法を掛けた。

「これが、例の腐った部分かしら?」

 楓が王様に向けて訊ねる。

「ほんの一部分であるがな。 そ奴等を捕らえろ、王家の者に刃を向けた逆賊だ」

「はっ!」

 聖騎士の3人が手際よく彼等に縄を掛け、他の聖騎士も呼んできて数名で硬直したまま目を剥き引きつる彼等を運び出した。


「それでだ、カディ。 お主には悪いが、当分の間この城に滞在してもらいたいのだ」

 一時的に3人だけになった部屋でそう王様に告げられた楓は、少し考える仕草をした後、ゆっくりと頷いた。

「乗りかかった船ですものね。 いいわ、やってあげる」

 やる?

 首をひねるわたしに楓は意味深に微笑み、少し背伸びをしてわたしの頭をお姉さんぶってぽんぽんと撫でた。

「良子はディーさんの所に戻ってね。 あの人の事だから、良子がこんなところに居ると知ったら、二度と私と会わせてくれなくなるわ」

 あー…うん、確かに。

「だから、良子が此処に来たことは内緒にしておいてね? 魔法の練習が終わって、私一人が此処に乗り込んできたってことにしておきましょう」

「……楓、一人で大丈夫?」

 不安がこみ上げてきて、楓を抱き寄せる。

「大丈夫よ? いざとなったら、良子に助けを求めるかもしれないけどね?」

 にっこりと笑う楓の意思が固いのに気づき、抱いていた肩をそっと離す。

「わかった、何があっても助けるから、ちゃんとSOS出してね」

「うん、ありがとう」

 力強い笑みを浮かべた楓に、わたしも笑顔を返す。


「巻き込んですまなかったなリオウよ」

 操駆し、どこでもドアの前に立ったわたしに、王様が初めて謝った。

 一国の王に謝られて、あたふたとする。

「いい、です。 こんな経験、したくてもできるものじゃないし。 だから、いいです」

 ”許す”という言葉は言えなくて、曖昧な言葉で濁す。

「許さなくてもいいのよ! 本当はこっちの世界にもっと力の強い魔術師が居れば一発で私がこっちに来れたのに。 こっちの魔術師でもなんとか呼べるサイズの魔力を持っていたのが良子だったから、まず良子にこっちの世界に来てもらって、それから良子に扉を作ってもらって私がこっちに来る手筈だったの」

 ……ええと?

 きょとん、と首を傾げるわたしに楓が説明を続ける。

「まさか扉の位置がずれてイフェストニアに行くとは思わなかったけど、万が一に備えて魔法の教本(国王監修、楓著)とか持ってってもらってよかったわ。 ただ、その教本に扉の作り方を書いてなかったのは大きな落ち度だったわ……」


 ……orz


「…えぇと、ということは、楓はここに居る誰よりも魔力があって。 わたしは、王様+5人の魔術師分の魔力があるってこと?」

「いいえ、良子の魔力はもっとあるわ、少なくともわたしの半分以上は」

 ということは、楓の魔力は……とても、凄いってことだね?

「そうじゃの、カディの魔力はやる気になれば一撃でイストーラを3回焦土と化すことができて、リオウは2回くらい焦土と化せるであろうな」

 有る意味とてもわかりやすい例えですね、王様。

「因みに余ならイストーラの半分くらいかの」

 それは…凄いのかどうなのかわからないです。

「なんにせよ、私と良子の魔力はずば抜けているってことよ?」

 わたしじゃなくて、楓がずば抜けているんだろうな。

 で、結局わたしがこの世界に呼ばれた理由は、楓をこの世界に呼ぶことだったんだ?

 ……ということは、わたしもうお役御免?

 端的に言うと、存在意義終了。

「じゃ……わたし、イフェストニアに帰るね」

「え? あ、良子?」

 なんだか慌てたような楓の声を背に、繋げてあったドアをくぐり振り返らずにドアを閉めた。




 ドアを解除し、たった半日空けていただけで随分久しぶりな気のする、居間のソファに倒れこむ。

 ジャリっ…と、体に巻きつけていた鎖が当たり、痛みを感じるが、解除する気になれず我慢してそのまま突っ伏した。

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