80話 オマエか…orz
この部屋はどうやらお城の地下にあるらしく、王様の部屋は遠いようなので、ドアの開閉に邪魔な場所で昏倒している宰相の聖騎士を引きずって退かせて。
「王様の所へ」
楓が宣言して扉を開けた。
扉を中心に半円状に囲まれながら、ホールドアップ。
……だよねぇ、イストーラは魔術師の国だって言ってたもんねぇ、そりゃ王様も魔術師で聖騎士も付いてるよねぇ。
それ以前に、王様に護衛が居ないわけないか。
「随分なお出迎えね?」
楓が至極真面目な顔で執務机に座っている王様に声を掛ける。
1教室程も有るそこは、煌びやかな調度品に囲まれて…豪華すぎて居心地が悪い(イフェストニアの王様と謁見した部屋もそうだったけど……煌びやかな調度品に囲まれるのは、居心地が悪くてもじもじしてしまう)。
「……またお前は、正規のルート以外から入ってくるのだな。 本当に懲りんヤツじゃ」
書類が広がっている執務机に行儀悪く肘をのせて頬杖をつく。
しかし、楓を見る目にそう悪い印象はない。
なんていうか、微笑ましそうに見えるのは気のせいだろうか。
「宰相の魔法は無効化させて貰ったわ。 昨日のような罠は発動しない」
「だろうな、先程から体が軽い、振り払っても消えぬ霞からようやく抜け出したように清々しいからの」
い、良いんですか王様? そんな、あからさまに宰相に魔法掛けられてました発言しちゃって…色々問題あるんじゃ。
王様は立ち上がると、ゆっくりとわたしたちに近づいて来た。
「三公も連れてきてくれたか、礼を言う、王家の血に連なる者、カディよ、そしてリオウよ」
わたしのことはノーカウントで良いんですけど…。
「まったくもうっ! 貴方、わかってて宰相の言いなりになって、私を牢にぶち込んだのね!?」
楓が爆発すると、王様が小さく笑った。
「わしも多少は奴の術に嵌っておったからの、わざとでは無いよ。 して、三公よ、長い間すまなかったな」
「滅相もございませぬ。 不遇は我等のみに非ず……王よ、良くぞ伝説の王女の末裔殿を遣わしてくださいました」
振り向くと、わたしと楓以外の人達がみんな床に膝を突き頭を垂れていた。
前を見れば聖騎士の人たちも剣を下ろして整列している。
慌ててこそこそと横移動して皆さんの端に寄る。
こ、こういう空気は苦手でっ! わたしは壁、わたしは置物っ!
場違いな空気をかもし出しているわたしは、軽く泣きそうです。
もう帰ってもいいでしょうか、夕飯の買出しも行きたいですし、お風呂の準備もしたいし……とにかく、帰らせてください…orz
「腐れた膿はあらかた出てきた、あとは逃さず一掃すればわが国に光も差すであろう」
「御意」
膿一掃かぁ……国を腐敗させて、その温床を活性化させて一掃……うまくいく可能性なんて低い上デメリットが大きいよね。
失敗したら一国が滅ぶし、腐敗を促進させる段階で国民を苦しめているわけで……。
それしか方法が無かったとか、そういう背景はわからないけど、かなり危険で非道な手段。
やっぱりこの王様、良い王様ってわけじゃないよね。
あぁもう、帰っても良いでしょうか。
こんな政治の中枢に居たくない、怖い怖い…魑魅魍魎、妖怪古だぬきとか居そうだし。
それについ一昨日、わたし絡みでこの国の兵士数十名を死傷させてしまったんだから、いつこの国から指名手配掛かってもおかしくない現状で安心して此処にいられるわけが無い。
……orz
多分まだその報告が上がってきてないだけだとは思うけど、じ、時間の問題だ。
しかし、ここに楓だけ置いて、サヨナラするのは薄情ってもんだし。
うぬぅ……。
などとわたしが悩んでいる間に、三公および牢に居た人たちは体調がよろしくないためにこの部屋の近くに空いている部屋で休むことになったようで、王様の聖騎士の人に護衛されつつ部屋を出て行った。
ついでに、むこうの部屋で昏倒していた宰相も連行された。
しかるべき時まで、監禁されるということだ。
残ったのは王様と護衛の聖騎士3名と楓とわたし。
執務机の横にある応接セットに促される。
聖騎士の人はドアの横に一人と王様の後ろに二名立った。
騎士の服装はカッコいいですが、威圧的ですね。
「で、どういうことなのかご説明願いたいのですが?」
一番最初に口を開いたのは楓サン。
「なぜ夢の中で嘘ばかりを教えてくれたのかしら? この国が豊かな国だとか、隣のイフェストニアが蛮族の国だとか、イフェストニアに狙われての対抗手段として私を呼びたいという話ではなかったのかしら。 それなのに、聞けば、そんなの全部嘘じゃない」
「あぁ、その事か。 あれは、奴に虚偽の情報を与えるようにと魔法を掛けられていたからの」
事も無げに言いますね。
「お主を呼ぶ本当の理由を知られるわけにはいかんかったのでな」
本当の理由?
「…宰相を失脚させる為?」
「そうだ。 奴を屈服させることのできる魔術師がわが国…いや、諸国を見ても居なかったのだ。 そこで過去の文献を紐解き、異世界へと渡った彼の魔術師に一縷の望みをかけ、そしてそれに成功した」
少し興奮気味に話す王様。
「5名の高位魔術師と余でもって練り上げた、異世界との扉が開かれたのだ。 長年研究しつづけていた命題の一つである時間と空間に干渉する魔法の実証が成ったのだ。 ただ、若干興奮してしまって手元が狂ったせいで、扉の位置がずれてしまったのは想定外だったのだがな、はっはっは」
あんたが犯人か……orz
楓も同じように脱力していた。