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78話 宰相

 牢の人を解放したところで、大事な事を思い出した。


「楓にお願いがあるんですが、本当に、本当に申し訳ないんだけど。 夕方までには家に帰りたいです」

 きょとんとする楓に、厳密に言うとディーが仕事から帰ってくるまでに帰りたい、と続けた。

 昨日の今日でこんな所に居ることがバレたら……深く考えるまでも無く、凍てつく視線に晒されて…四六時中監視されそうだ。

 それにもうこれ以上ディーに心配をかけたくないし、つい先日の惨劇のように剣を振るって欲しくない。

 

「わかったわ、それじゃぁ多少の強硬手段は仕方ないわよね?」

 無理とか言われるかと思ったけど、なんだろう、楽しそうですね楓さん。

 ともかく、駄目出しされないでよかった!

 刀を鞘に戻した楓に今後の方針を確認。



 え…っと? 楓サン? 「とにかく宰相おっさんをボコる」作戦ですか?



 基本、魔術師の周りには聖騎士と呼ばれる護衛が5人は居る。

 操駆している間の守りの為だ。

 勿論宰相おっさんの周りにも居る、この国でもトップクラスに強い人たちが。


「じゃぁ、私が宰相のこと御仕置きしてる間、その人達を抑えてもらってもいい?」

「う…うんわかった、なんとかする」

 とりあえず、”動くな”の魔法で動きを止めて、縄で縛っておこう。

 でも、心配だからあと2・3本縄が欲しいなぁ。

 シャララシャララ……と軽い音がして、腕に巻いていた鎖が動き出し、程なくその先に縄を引っ掛けて戻ってきた。

「……便利ね?」

「……うん、便利」

 なんとなく、鎖の先っぽの丸い部分を労いの気持ちを込めて撫でて縄を受け取り、それを2本に切り分けてから指先に傷をつけて血と共に魔法を掛けて右手と同じように左手の人差し指と薬指に指輪として繋げ、一本は腕に巻きつけもう一本は短く縮めて垂らした。

「さぁて、殴りこみに行きましょうか?」

 わたしの準備ができるのと同時に、牢屋へ至る扉に魔法を掛ける。

「あの”腐れ宰相閣下おやじの元へ”」

 吐き捨てるように扉に宣言する。


「待って、わたしが先に行く」

 扉を開けようとした楓を制して、わたしが先に行く。

 一つ深呼吸して右腕の鎖でいつでも盾を展開できるように気を引き締める。



 扉の向こうには確かに宰相おっさんが居た。

 どうやら趣味の部屋らしい。

 本で見たことのあるような拷問道具が整然と並んでいる前で物色している宰相が一人。

 手狭な部屋だからだろうな、護衛が一人も居ない。

 ……まぁ、そういうことなら。

「な、なんだ貴様らっ!!」

「行け」

 左手を伸ばすと、鎖が勢い良く伸び宰相に巻きつく。

「ぐあっ!! 儂が誰だかわかって……っ!!」

 わたしの後ろから出てきた楓を見て、顔を赤黒く上気させ口をぱくぱくさせる宰相。


「宰相、貴様のやってきた所業、全て白日の下に晒しその身を以て償え」

 スラリと抜いた日本刀の切っ先を宰相に向け、楓が言い放つ。

「貴様こそ儂に仇なそうとするなど、思い上がるものいい加減にせぬか!!」

 空気が震えるような怒声に、楓の肩が一瞬震えた。

 恫喝するようなその声は、確かに迫力が在る。

 流石一国の宰相なだけある、といえるんだろうな。

 でもなぁ、あの樽みたいな腹はなぁ、無いな。

「宰相であり高位魔術師である儂に牙を剥こうなど、思い上がりも甚だしい!! 貴様! とっととこの鎖を解くが良い!!」

 あくまで偉そうにわたしを睨みつける宰相。

 顔も真っ赤だし、まるでダルマだな。

 脳内で、あのころころ転がる真っ赤なダルマさんを思い出し、思わずプッと笑ってしまった。

「な、何が可笑しい!! 貴様、今すぐその口を引き裂いて、体中の骨という骨を砕いてくれよう! 無論簡単には死なぬよう処理をしながらなっ!!」


 無言で怒気を放っている楓の肩をぽんぽんって叩きちょっとだけ静めてから、宰相に微笑を向ける。

「ねぇ、どうやって死なないようにするんですか? 肉体の強度を上げる魔法を掛けておくんですか? それとも痛覚を麻痺させて、自分が切り刻まれるのを見せ付けるんですか? それとも単に手加減しながら骨を砕いていくんですか? ……たとえば、こんな風に」

 笑顔を引っ込めて宰相の目を見つめ、宰相を捕らえている鎖をぎりぎりと締め上げてゆく。


 ゆっくり、ゆっくりと。


「き、き、貴様っ!! 自分が何をしているのかわかっておるのかっ!! この、至上の魔術師たる儂に何をしてっ!! おい! お前っ!! 何をしておるっ!! そ奴を止めぬかっ!!」

 口から泡を飛ばして楓に怒鳴る宰相おっさん

 この状態でどうして楓に命令できるのか、凄く不思議だ。


「そうねぇ。 良子そのくらいにしておかない?」

 楓がこっちを向いて微笑む。

 完璧に作られた、腹の底に怒りを煮え立たせている微笑……楓さん、それ怖いから。

「そうじゃないと、私のヤル分が無くなっちゃうから」

 その極上の笑顔を宰相へ向け、日本刀をチャキッと返す。

「ヒィっ……!! ば、ば、ばかなっ!! 儂の術が失敗したとでもいうのかっ!!」

「失敗はしてなかったわ。 ただ、解除しただけ」

「か、解除だと!? 完全に解除できるのは、儂以上の力を持ったもの……だけ」

 宰相の顔が見る見る青ざめてゆく。


 へぇ、良いこと聞いた。

 わたしと楓の笑みが深くなる。


「そういう事なんでしょうね? 愚かで矮小な宰相閣下」

「あなたがわたし達より強い魔術師だなんて、どうしてそう思えるのかがわからないです」

「そうね、理解できないわね」

「そうだ! 今まで虐げてきた人の気持ちを知ってもらうために、御仕置きしない?」

 楓と見交わして微笑む。

「それはいい考えね! 拷問がお好きなご様子だから……そうだわ、参考として牢屋にいらした皆さんにどんな事をされていたのかお聞きしてみましょう」

 繋げっぱなしだったドアを振り向く。


 そこには、牢に居た人たちが勢ぞろいしていた。

 その面々を見て、宰相は泡を吹いて倒れてしまった。

 実は、こっそり鎖を締め上げてて、それに耐え切れず気を失ったのだけど……正気のままだと、高確率で楓の刀の錆になりそうだったし、まぁ人助けってことで。



「……本当に小物だわ。 こんなのに嵌められたなんて、人生の汚点も良いところだわ!」

 憤慨する楓の気持ちもわからなくはないです。




「末姫様の末裔様方、我等三公、国主に代わり御礼申し上げまする」


 振り返った先、あの一番奥に居たおじいさんを筆頭に床に膝を突き頭を垂れる人達が居て、びびった。



「どうぞ頭を上げてください、私達は私怨で動いていただけですから」

 彼等に堂々と向き合える楓が凄いと思います。

 大人の人に畏まられて狼狽しまくりのわたしは、楓の後ろに引っ込みます。




 顔を上げた人達の視線がほぼ楓に行ってくれてよかった。


 楓とおじいさん達が話をしている間に、気絶をしている宰相の鎖を少し緩めてから端を縛ってそこでブチンと切り外した。


 そういえば、荷馬車で輸送されてる最中にちょっと考えてた魔法があるんだけど、この人になら試してみてもいいかな?


 操駆して。

「”魔法禁止”」

 手を宰相おっさんにかざす。

 ふっふっふ……!

 魔術師>普通の人、なんて考えの人ならば、自分も普通の人になったらどういう反応するんだろう?

 そうだ、その上、この人色々な人にろくでもない魔法を色々な人に掛けてたんだよね。

 あのベールみたいな魔法を掛けられた人達、ここから一斉解除できるかな?

 操駆して。

「”おっさんが過去に掛けた魔法の一斉解除”」

 手ごたえが無いからわかりにくいが、大丈夫だろう。

 何せ、イメージすればソレが魔法になるのならば。



「……で、何してるの良子?」

「ぅわっ!! あ、お話終わったの?」

 宰相おっさんの傍にしゃがんであーだこーだしていたから、突然肩を叩かれて本気でびっくりした。

「とりあえずこれから王様のところに行くわ。 で、何していたの?」

 立ち上がって、皆さんがこちらを注視しているので、楓の耳元に口を寄せて、宰相おっさんに魔法禁止と過去に使った魔法を解除をした事を伝えた。

「へぇ! 在る意味、えげつないわね!」

「は? そ、そう?」


 褒められた…んじゃないっぽい? え? 褒めてくれたの?

 えげつないは褒め言葉じゃないからね!

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