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76話 無謀

 翌朝、重い体を引きずってベッドから這い出した。

 ディーの馬鹿、ディーの馬鹿、ディーの馬鹿……何回も、何回も……っ。

 ディーはすでにしごとばへ出てしまった(あれだけ夜更かししたのに、活き活きしていた…鍛えてる人間とそうでない者の差か?)事の経過をバル隊長に説明するためだ。


 一度自室に戻って服を着替え、朝食の準備をしに台所に向かう。

 自分と楓の為に、冷蔵箱にあった卵でオムレツを作り、まだしなびていなかった野菜でサラダを作る。



 それにしても、楓…遅いなぁ。


 空腹に耐え切れなくなり、楓を起こすべく客間へと向かったが……。




 空のベッドには、人が入った形跡も無く。

 とすると…。


 振り向いて、今自分が入ってきたばかりのドアに向かう。



 ……嫌な予感が当たってなければいいけど。

 操駆をし、ドアに魔法を掛ける。


「”楓のところへ!”」

 宣言し、ドアを開ければ……。




 どこの牢屋でしょう?




「んー! んーんー!!」

 いやいや、牢屋を物珍しく観察している場合ではなかった。

 楓の口を塞いでいる布を外してやり、両手足を拘束している縄を魔法で解いた。


 うむ、この縄は頂いておこう。

 あからさまに危険地帯なので、すぐさま操駆して指を小さく歯で傷つけ、2本の縄を鎖化して一本は服の下に巻きつけ即席防具とし、もう一本は腕に巻きつけておく。

 

「良子っ、ありがとう!」

 自力で目隠しを外した楓が、少し憔悴した様子で礼を言ってきた。

「いえいえ、どういたしまして。 ところで、ここ…って、イストーラ?」

「そう……」

 言いかけた楓とかぶるように、遠くからドアが軋む音がして、複数の人間の足音が近づいてくる。


「っ!! ”解除”っ」

 何を思ったのか、楓がドアを解除してしまったので、牢屋の鉄格子の入口が閉じてディーの居間との接続が絶たれる。


「…あれ? 帰らないの?」

「あ? あぁぁっ!! その手があったっ。 とにかくドアの存在だけは隠さなきゃと思ってっ!!」

 なんだかわからないが、かなりテンパっているような楓。


「見つかったらまずいんだよね?」

「も、勿論…っ」

 青ざめる楓から事情を聞くのは後にして。


 楓を抱き寄せてから操駆。

「”光学迷彩”」

 二人を視認できないようにしておいて、腕に巻きつけていた鎖に鉄格子を切断させ、人が通り抜けられる程の穴をあける。


 その穴から逃げようとする楓を押さえて、楓を腕の中に抱きしめ牢屋の隅で小さくなる。

「透明になる魔法を掛けたから大丈夫だよ、誰も居なくなってから落ち着いて逃げよう?」

 耳元で囁くと、こくこくと頷いた。


 複数の足音がどんどん近づいてくる。

 なんだかかくれんぼしてるときを思い出すなぁ。

 あの、胃が持ち上がるような焦燥感というか、なんというか。


 やがて現れたのは、豪奢なマントを羽織った…明らかに王様だろうって人と、黒にやたらと金の装飾を凝らしてある魔術師服を着ている小柄なおっさん(おっさんは超普通におっさん顔なので、とても服が似合わない、どんな仮装だ、と)、他の2人も魔術師の服を着ている。

「な!? これはどういうことだっ!?」

「………逃げられた、ということのようですな」

 慌てる王様に、不機嫌そうに返すおっさん。

「直ちに捜索を開始しますっ!!」

 他の魔術師の一人が走って元来た道を戻ってゆく。


「それにしても、見事な切り口ですな。 ご覧ください、鉄が一刀の元に切り捨てられている……あの女を救出に来たのは名うての剣士か、あるいは殺風刃さっぷうじんを得意とする魔術師でしょうね。 しかし、あの女にこちらの世界での仲間が居るとなると厄介な話ですなぁ」

 鉄格子をためつすがめつ見ていたおっさんが、もったいぶった感じで話しながら立ち上がり王様と向き合う。

「夢繋ぎでは、あの女は貴方の言う話を興味深く聞いていたのでしょう?」

「あ、ああ! 勿論だ! お前に言われていた通りにわが国の現状を伝え、憎きイフェストニアへの敵対心を煽ってやった」

 あれ? 王様ってばおっさん相手に随分下手に出てますね?


 おっさん>王様

 ということなのかな、それとも、実はおっさんが王様なのか?

 …いや、それはないな。



「まぁ、あの女がこちらの世界に居るということは。 イフェストニアに捕まってしまったあの愚鈍な異世界人が呼んだということなのでしょうが」

 愚鈍わたし…?

「確か、あの愚者は我が手の者に捕らえさせ、護送中のはずですが……何か、手違いが起きたのかもしれませんね。 一応、捕獲部隊には死なぬ程度で連れて来いとは申し付けあったのですが」

「し、死なぬ程度か? 普通に連れてきてはいかんのか?」

 聞き返した王様に、おっさんは鼻で哂った。

「我等の手を煩わせた者に、情けを掛ける必要があるとお思いか? 王よ、いつも申し上げているが、王たるものは何人をも従わせる畏怖を持っていなければなりません、侮られては付け入られる隙となるやも知れぬのですぞ」

 怒りMAXの楓を押さえつけながら、わたしも切れそうになるのを堪える。


 いやいやいや、国のトップがコレ?

 そりゃ国が傾いても可笑しくはないかもね。


「とにかく、牢番は尋問の後、絞首刑ですな。 使えない人間をおいておく余裕など我が国にはありませんからな」


 ちょ、待って。 それは間接的にわたしの所為でしょう…ね、やっぱり orz


 ちょんちょんと楓につつかれて、彼女の方を見ると。

 クイクイッとおっさんの方を親指で示して、その後その指で首をかき切るジェスチャーをした。

 うんうん、言いたいことは凄くわかる。

 でもね、人って簡単に死んじゃうんだよ? だからせめて、半殺しにしようね?

 という意味を込めてジェスチャーすれば、納得しないながらも頷いてくれた。


 おっさんはもう一人残っていた魔術師に牢番を捕らえて拷問部屋に連れて行くように命じた。

 あわわわ…っ!


「後で儂が直々に尋問するから、未だ手を付けるなよ」

「…はっ。 了解いたしました宰相閣下」

 敬礼までする魔術師の顔は青ざめていた。

 ……こんな薄暗い中で判るほど青ざめるってどうよ?


 それにしても…宰相閣下ねぇ?


「今回は王が尋問いたしますか? 儂が最近考案した尋問術をお教えいたしますよ?」

 にやにやと薄気味悪い笑みを浮かべる宰相閣下おっさんに、王は即座に首を横に振る。

「尋問はそなたに任せる、存分に尋問術を試すがいい」

 王様ってば、宰相閣下おっさんと目を合わせないんだねぇ。

 力関係が凄く判りやすい。


 やっと二人が出て行って、気配も無くなったので、深く息を吐きだし楓を抱きしめていた腕を解いた。




 

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