68話 vs ジェイ
馬から下りたジェイさんと、無言でにらみ合う。
流石だよね、眼力に負けそうだ。
「なぜ逃げた」
低い声が、不愉快をあらわにしている。
いつも陽気な雰囲気のジェイさんには似合わないな。
「逃げないほうが可笑しいでしょう」
あんな目にあわされて、黙ってろって言うほうが無茶だ。
「これは、任務だ」
言うジェイさんに、冷めた視線を送る。
「誰の? わたしはそんな命令を受けてない」
「俺が昨日、申し伝えたはずだが」
「了承していません」
気が高揚し、それに触発されるように服の下の鎖が静かに動きだす。
「お前の承諾は求めていない。 任務を遂行しないのなら、それなりの覚悟はあるのだろうな」
一体何が、ジェイさんをここまで”任務”に拘らせるんだろうか。
それともこれが、”ティス家”がらみ(ディーと同じ情報を持っているなら、ジェイさんも誤解しているだろう)だからなのか。
どちらにしても、剣を抜いたジェイさんに、何を言っても無駄だろう。
「丸腰の人間に、剣を向けるんですか?」
「それが任務ならば」
任務、ですか。
「剣を向けるってことは、自分がやられるって覚悟は、勿論あるんですよね」
言いながら、さっき使った中年兵のナイフを取り出す。
操駆し、血をその刃に与え、一振りの日本刀を出現させる。
「……出鱈目な魔法だ」
「何とでも言えばいいです」
刀を正面に構えて、威嚇する。
ジェイさんが刀に意識を集中させている間に、服の中を通り、ズボンの裾から出した鎖が地中を通り、ジェイさんへと向かう。
「捕縛」
「な、にっ!!!」
土を巻き上げて現れた鎖に、驚いて咄嗟の判断ができなかったジェイさんは、呆気なくその鎖に身柄を拘束された。
「くそっ!! てめぇ! 卑怯だろうがっ!」
「…先に、丸腰の人間に剣を向けた人に言われたくないですね」
鎖が器用にくるくるとジェイさんを縛り上げ、荷台にぽいっと乗せて魔法で眠らせる。
いや、ほんと、いい仕事してくれます、この鎖。
泥だらけになった鎖を魔法で綺麗にし、また服の下に戻す。
さて、厄介ごとは取りあえず片付いたし。
どこでもな、魔法のドアーでも作ろうかな?
行き先は楓のところで…あ、この時間だと授業中か?
流石に教室にドアーを出現させるのはまずいよね。
しずかちゃんの入浴中にドアーを出現させるのび太と同じくらいまずいよね。
一刻も早く帰りたいけど、まぁ、夜まで待つくらい良いか。
なんてったって、もう自由の身だし。
乾物でおなか膨れてるし!
さて、じゃぁ夜までどうしようか?
近くの町でも探して、ご飯食べるかなぁ。
この世界に居るのもあと数時間かと思うと、名残惜しかったりもするな。
最初に泊まった宿の朝食も美味しかった、あの時はディーの分のスープまで飲んじゃったっけ。
王都に行くまでに泊まった宿のご飯はどこも美味しくて、王宮の食堂のご飯も、オルティスに分けてもらった夜食も美味しかったなぁ……。
ああ本当、この世界のご飯って凄く美味しいんだよねぇ。
ここのご飯、もう食べれなくなっちゃうんだ……。
それに、こんなに便利で面白い魔法も、こっちの世界じゃないと使えない。
しんみりしていると。
………視界の端に、踊る人発見…。
よく見ると他にも周囲を剣を手にした人々が居て…すっかり取り囲まれていました。
ぼんやりするのも程々にせんと……!