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67話 鎖

 目が覚めると、既に馬車は動き出していた。


 まだ夜は明けきっていない、朝の空気だ。



 そういえば、昨日あのおっさんが割ったガラス!

 あの破片で縄を切れないだろうか!!



 必死に体をひねって後方を向くと、そこには、瓶が割れた形跡はあったが、めぼしい破片は全て片付けられていた。


 ちっ…察してたか。



 せめて、腕が前にまわせたらいいんだけど。




 それにしても、昨日は変な夢を見た。

 ディーとが出てきて、いい夢なんだか悪夢だったんだか。

 ただコレだけはいえる。


 わたしは、帰る方法を手に入れた。




 休憩の時、恐る恐るトイレを申し出た。

 昨日ジェイさんから水をもらったせいか、今までは汗で発散されていたものが溜まったらしい(果たして汗が出ることで、おしっこが出なくなるのかはよくわからんが、もしかしてこれも魔術師の特異体質?)

 中年兵はどうやら小ではなく大だと誤解したらしく、渋々ながら荷台からわたしを下ろす。

「すみません、せめて、手を前で結んでもらえませんか。 これじゃぁ」

 暗にお尻が拭けない事を仄めかすと、面倒くさそうに、それでも解けないようにきっちりと両腕を前で縛りなおしてくれた。

 今まで大人しくしていたお陰か。

 

 何度も逃げたら殺すぞと脅しをかけ、逃走防止の紐をつながれる。

 こんな紐、もう、何の役にも立たないんだけどね。


 重い体を引きずって、草むらに向かう。


「おう、そこまでだ! それ以上奥に行くんじゃねぇ!」


 まだまだ見える範囲で止められる。

 止める時に縄を引かれて、危うく転びそうになった。


 まぁ、こんだけ距離があればいいか。


 振り返り、胸に手を当て…その手を伸ばし小指から握りこむ。

「”重力4倍”」

「何を…っ!! ぐっ、何をしやがった!!」

 膝に手を突き、襲い来る重力の重みに耐え、こちらを驚愕の眼差しで見る中年兵に更に追加する。

「”5倍”」

「ぐっあっ」

 とうとう倒れこみ、地面にべったりと張り付く。


 近づいたわたしを、恐れを込めた目で見上げ、動けないながらも必死で這って逃げようとする。

 男の腰に挿してあるナイフを不自由な両手で抜くと、男の顔は恐怖に引きつった。


 誰もあんたなんか殺さないっての。


 男から見えない方へ回り込んで、操駆し、指先をそのナイフで傷つけ、その血の付いた手で縄の端を握る。

「”解けろ”」

 縄はまるで意思があるかのようにわたしの腕から解けた。

 やっと両手が軽くなった!

 痣の付いた両手首を擦り、思うように動かない肩を少しずつ回して馴らす。

 まだ握り締めていた縄が、意思を持っているかのようにうねうね動いている…少し、気持ちが悪いが…あれ? この動き…。


 操駆をして縄にイメージを与える。

「”わたしの意志により動くチェーン”」


 シャラララ…


 軽快な音を立てて、細身の鎖が波打つ。

 鎖の節一つ一つはハート型で、先端は円錐。

 …やればできるもんだね、これはあれだ、弟が去年のクリスマスに父さんにねだって買ってもらっていた古いアニメのDVD、それに出ていた美少年戦士の武器をうろ覚えに模倣だ。


 右手の中指に銀色の指輪が嵌り、そこから鎖が伸びている。

 すぐに切れそうなほど細い鎖だが、イメージしたのは不断不滅の堅固さだから、そうそう壊れることは無いだろう。


 思い描けばその通り動く。

「行け」

 気分を出すのに、声を添えて右手をスッと前に伸ばし、正面にある木を狙う。


 スコン

 

 小気味良い音がして、鎖が貫通…え、貫通するんだ?

 思いのほか威力があってびっくり!


 慌てて戻そうとするが、鎖の節がハート型だったりするので、なかなか抜けない。

 ぎゅいぎゅい、ひとしきり引っ張り、途中で鎖の形状を変えればいい事を思いつき、鎖の節を丸くして引っ張り出した。

 ハート型、可愛かったけど仕方あるまい。


 それにしても、コレ、攻撃に使ったら相手即死させかねんね…。


「うぐっ……ぐぐぅっ……」


 気が付けば、中年兵はかなり頑張って這って逃げてた。


 逃がさないっての。


 右手を中年兵に向けると、鎖が走り兵の脚を捕らえて引きずり寄せる。

「荷台に積んで、ついでに拘束」

 鎖は素晴らしい働きをしてくれた!


 軽々と中年兵を荷台に乗せ、奴の両手を後ろでに回し鎖が締め上げ拘束、拘束した部分だけ切り離し縄に戻すと、こっちに残った切断箇所は自動修復され、円錐状の先端が出来上がる。

 同じように足も拘束。


「凄いなぁ! おまえ!」

 思わず鎖を撫でるが、鎖はやっぱり鎖で冷たい無機質の感触がするだけだった。



 こうじゃらじゃらと垂らしておくのはイマイチなので、鎖は外から判りにくいように服の下に隠しておく。

 袖口を通して、胴体に巻きつけておけば、取りあえず防弾チョッキ的な役割もするし隠せるし、一石二鳥だ!




 気合と根性で動くのはこれくらいにして、ご飯だ!!

 腹が減っては戦はできないしね!


 そんなわけで、中年兵の持っていた食料はすっかり食べつくしてしまいました!

 久しく腹に物を入れてなかったけど、吐くこともなく、全てを受け付けましたよー。

 これも魔術師的な特異体質なのかな? もっとも、日本に居たときも物心ついてから、一度も吐いたこと無いから、元々胃腸が丈夫であるからかもしれないけど。


 ご飯を食べるとき嫌がらせに、重力5倍を掛けたまま、目の前で食べてみたけど。

 只恐怖に引きつった中年兵に見られるのって全然面白くなかった、すぐに眠らせて、重力の魔法を解いておいた。


 食料を食べつくすと、尿意が戻ってきたので少し離れて用を足す。





 荷馬車に戻ると、ジェイさんがこちらの異変に気づいたのか、馬を走らせて来るのが見えた。

 さて、どうするか。



 もう捕虜になるつもりはさらさら無い、他人の思惑で振り回されるのはうんざりだ。

 だから、わたしは、じっとジェイさんがこっちに来るのを見つめていた。



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