7話 魔術師
「馬鹿が、なぜ戻ってきた」
繁みから出てきたわたしを、7対の目が捉える。
他の3人は隊長と交戦中
隊長は、剣を相手に向けたまま、声だけ向けてくる。
えぇと、山賊とか盗賊系じゃないよね。
何せ、ずいぶんと立派な制服だし。
剣も立派だし。
これは危険ですね!
拘束が手首だけでホント良かった。
両手ごと、胸に手をやり、右手を小指から握りこむ。
「”うごくな”」
隊長のそばに居なかった8人が硬直する。
「なっ!? 魔術師かっ!」
「今!解術を!」
一人だけ離れていた、裾の長い服を着ていた人が……踊りだした。
呆然とそれを見る。
両手を天に突き出し、右へ左へ両手をまわし、首もこきこき、右足で円を描きながら、左足はつま先立ち。
……えぇぇぇぇ!?
「まずい! 術を使われる!!」
隊長のあせったような、真剣な声に、再度、 えぇぇぇ!?
もしかして、これが術を使うときの標準仕様?
いいの? これで、いいの?
呆然としている間に、準備が整ったようで。
「”この者たちに掛けられし、敵対せんものより施された停止術よ退けー!!!”」
ま、魔術師さん? が術を発し、わたしがうごけなくした人たちの術が…弱まったようだ。
まだ、完全に術がとけていないようで、ぎこちない動きで逃げていくその人たちを、わたしは呆然としたまま見送った。
「助かった、礼を言う」
隊長にそう声を掛けられて、やっと脳が動き出した。
そして、地面に倒れているジェイさんを思い出す。
「あ、ちょ、ちょっと! 大丈夫ですかっ」
あわてて近づいて見れば、ぐーぐーと、気持ちよさそうに寝ているジェイさんが…。
「魔術師に催眠の術を掛けられたようだ」
「……そうみたいですね」
寝てるだけだから、隊長もあせってないのか。
「それにしても、両手を拘束したまま、どうやって術を発動させた?」
ぎくり…。
さっきの面白ダンスが、本来あるべき魔法の手順だとしたら、わたしの動作は明らかに短い。
本当のことを言ったら、また簀巻きに逆戻りなのは必至だよね。
「え、えぇと…ですね…」
剣を鞘に戻した隊長が、目の前に立っている。
こ、怖くて目が見れないです。(まぁ普通に立ってたら、身長差30センチは固いから、目なんか合わないけど)
どもるわたしの顎をとらえ、くぃっと上を向かされる。
強制的に目を合わされた。
う、うぁあ。
藍色の目が、じっとわたしの目を見つめる。
彼氏の一人も居たことの無いわたしには、かなりな苦行です。
だって、隊長、ぱっと見は強面の癖に、良く見ると案外顔立ちは整ってるんだもん!
かぁっと顔が熱くなり、目だけ逸らす。
「…目を逸らすな」
言われて、ちらっと視線を戻すが……無理でした。