66話 ディー
デュシュレイはあの日無断で城を飛び出してから、2日馬を走らせ続けていた。
馬をつぶすわけにはいかないので、最低限の休憩を取りつつも、焦る気持ちのまま、ティス家の領地のある方角を目指す。
当初、向こうは裏道を通っているとはいえ、最終的な目的地は同じなのだからと、道など選ばずに馬を走らせていたが、二日目の夜ほんの一時の仮眠中に見た夢で、それを変更することとなった。
「イストーラにつかまってる」
というリオウの台詞に固まってしまった。
その後、リオウの話を聞き、突然現れたリオウの親友を名乗る小柄な少女の話もあり、リオウがイストーラへ向かっていることは納得した。
それはそれで問題だったが、本当の問題はその後の話だ。
「ィノシターカディ(木下楓)…か、目障りな」
あれが、リオウの親友などでなければあの場で切り捨てていた。
あの少女の存在が、リオウを手の届かぬ場所へ連れて行くのならば。
夢の中、夢中で縋ってきた体、首筋に甘えるように擦り付けた頬、デュシュレイを気遣う声まで耳朶に甘かった。
夢を反芻し…いや、あれは夢ではなかったと、確信している。
どんな魔法かはわからないが、あの夢はリオウが互いの夢を繋ぎ、夢の中で間違いなく彼女にあったのだと。
そうでなければ、あのィノシターカディの鮮明な存在感も説明できないし。
もしも夢ならば、リオウに口付けの一つ、愛撫の一つもせずに目覚めるなどありえないのだから。
リオウとの逢瀬を思い描きながら、馬を走らせる。
王都からティスの領地へ向かう裏道は数本有ったが、王都からイストーラへ向かい、尚且つ人気のない道はティス家の領地をかすめて伸びる1本しかなく、デュシュレイは迷うことなくその道をひた走った。
その道は奇しくも、リオウと出逢った場所だった。




