61話 報告
オルティスの訪問以降、デュシュレイの家を見張らせてあった六番隊の隊員から、動きがあったとの報告が入った。
「ティス家が動いたのか?」
ロットバルドが眉をひそめ、確認する。
「馬車は町民が荷物を運ぶのに使うような粗末な荷馬車でしたので、誰の持ち物かは不明です。 誘拐犯は一人、若い男で、荷馬車はデュシュレイ隊長の従者殿を乗せた後、街道は走らず、人気の少ない裏道を選びながらティス家の領地方面へ走っております」
報告に上がった隊員は、自分の左側から吹き付けてくる怒気に耐えながら、報告を続ける。
「現在ジェイ副隊長が尾行を続けており、副隊長の指示で部隊内から3名人員をティス家の領地へ先回りさせてあります」
「うむ、引き続き尾行を続け、あと2名尾行に同行させ、随時報告せよ」
「了解いたしました!」
敬礼した後、いつも以上に素早く部屋を退出した部下に苦笑し、壁に背を預け耐えるように腕を組み殺気を放っているデュシュレイに目を向ける。
「すまんな」
多くを語らないロットバルドの謝罪に、デュシュレイは無言で壁から背を離し、戸口へ向かいかけた。
「行くなよ、デュシュレイ。 これで、尻尾がつかめるかも知れんのだ!」
立ち上がり、引き止めるロットバルドの声に、デュシュレイは表情の無い顔を向ける。
「私を止めるのか?」
たった一言そう言うと、慄くロットバルドに一瞥をくれ部屋を後にした。
ロットバルドはデュシュレイを止めることは諦め、重いため息をついて椅子の背に体を預けた。
「どうぞ」
アルフォードの出す冷えたお茶を一息で飲み干す。
「忘れていたわ、あやつが伍番隊であったことを」
卓に置かれたカップに茶のお代わりを注ぎ、アルフォードも頷く。
「リオウさんが来て、随分穏やかでしたから…。 狂犬の伍番隊、狂犬を率いているのも狂犬…、犬の性はそう簡単には消えぬものですね」
アルフォードの目に、リオウが見たことも無い冷めた光がよぎる。
それを横目で見ながら、ロットバルドは疲れたようにため息を零し、窓から空を見上げる。
「犬か……。 折角いい飼い主ができたと思ったんだがなぁ」
「全くです、あのデュシュレイ隊長があそこまで彼女に傾倒する理由は謎ですが」
「忌々しいのはやはりティスだな……。 狂犬が本格的に暴走する前に、けりがつけばいいが」
ロットバルドは呼び出した部下に二つ三つ指示を与え、またいつものように執務机に向かった。