60話 ドアは確認してから開けるべし
四方山話をした後、アルさんから頼まれごとをされてしまった。
明日のワタクシの任務
・お城の食堂に潜入し、冷凍箱を移動不可能にすること
やほー! 久しぶりの公認外出だー!!
ちょっとテンションが上がり、夜もなかなか眠れず、朝はかなり早い時間に目が覚めた。
準備万端で、迎えに来てくれる予定のアルさんを待つ。
勿論従者の格好だ。
腰の帯は何とかそれなりに結んだけど…あとでディーに直されそうだ。
玄関に人の来た気配がしたので、大急ぎでドアを開けた。
「あ……えぇと? どちら様でしょう?」
ドアの前に立って居たのは、アルさんじゃなく、知らないお兄さんでした。
ディーよりは身長が低いけど、こちらでは標準的な体格のお兄さんに首を傾げる。
アルさんの代わり…とかじゃないっぽいね、市民服、というか旅人服?
「キーサラギだな?」
妙な発音で確認されて、思わず頷いてしまう。
「はい、如月ですが、どちら様ですか」
「お前が知る必要など無い」
低い声と共に腹部に衝撃を受け、意識が途切れた。
久しぶりに苗字で呼ばれたなぁなんて、夢と現の狭間で考えて。
こっちでわたしの苗字を知る人なんて居ないはずだと、思い至り。
となると、十中八九、あの人は委員長がらみだなと、結論付いた。
そうするってぇと、あの人はイストーラの関係者だよね。
で、何ゆえわたし、こんな風に拘束されて、轡を噛まされて、乗り心地の最悪な馬車の荷台に転がされているんでしょう……わたしの事を隠すためなのか、馬車の低いあおりには黒い布が張られ、コレならいかにも荷物を積んでいるように見えるだろうね。
結構スピード良く走る荷馬車だし、道が舗装されているわけも無いので、荷台がバウンドする度に体をあちこちにぶつける。
後ろ手に結ばれている両手も痛いし、轡のせいで顎もだるい。
出会った当初のディーとジェイさんの待遇よりも悪い気がするんですが。
この、超低いホロもネックだよね…、色が黒だから、熱を吸収しまくり…中はサウナばりですよ。
更に、悪路を走る馬車のせいで頭ががこがこ床板にバウンドするのを、体を丸めて少しでも負担を軽減しようと試みる、が。
あーなんだろう、また、意識が…遠のく……。