58話 委員長
「やっと…っ!!」
木下楓は目が覚めると同時にがばりと身を起こし、夢で出会った級友の姿を思い出して感動に打ち震えた。
彼女…如月良子を向こうの世界に送って2ヶ月半が経っていた。
彼女の気質と魔力があれば、易々と死ぬことはないことはわかっていたが、万が一のことは考えていた。
自らのせいで彼女の運命を変える業は、彼女を向こうに送ることを計画してからずっと有った。
だがまさか”向こうから扉を開く”魔術師達があれほど低能だとは思いもしなかった。
当初、魔力が大きすぎる楓が渡れるだけの扉を開く事ができないから、楓よりは魔力が低い(だが他の魔術師が束にならねば叶わない程の魔力を持つ)良子に先にあちらの世界に行ってもらい、向うから彼女に扉を開いてもらって楓があちらの世界に行き、良子はすぐに日本に帰す予定だったのだ。
夢の中で交信される、異世界の王との会話では、イストーラの魔術師は大陸一有能で至上だと、自信満々に言っていたから、まさか、良子が見当違いの場所に降り立つことになるとは思いもしなかった。
「愚鈍、無能、高飛車…最低のクズっ」
良子が行方不明だと知って、イストーラの王にありったけの罵詈雑言を浴びせたのは記憶に新しい。
いくら王だろうが、きっちり現状を把握もせず、憶測と身内贔屓で判断を誤らせた罪は大きい。
大切な友人を危険な目にあわせた、壮年の王をぎりぎりと睨みつけた。
夢の中であることが口惜しい、向こうに行ったあかつきには何が何でも一発殴るのを心に決めた。
罵声を浴びせてから暫くの間、王は夢を繋げることをしなかった。
それもまた、楓の怒りを倍増しにした。
一ヶ月も音信不通で、楓は日々の生活を続けながらも、こちらから干渉できない現状に胸を痛めていた。
一ヵ月後、しぶしぶといった感じで夢に現れた王に詰め寄るが、良子の行方は知れず、国中に触れを出したが、ハズレばかりだと、気まずそうに言う。
「大して広くも無い領土なのにどうして見つけられないのよ!? 本気で探してるの!?」
「さ、探しておる!! その娘が居らんとお主をこちらに召喚できぬからな! お主も言葉に気をつけろ! 自国の王に対して!!」
「うっさいわボケ! 傍系とはいえ私だって王族よ!! あんたにもっと力があったら私がそっちに行く必要なんて無いのに! せめてあんたにもう少し力があれば、直で私を呼び出せたのに! 良子まで巻き添えにしたのに! 不甲斐ないとは思わないの!?」
「う、う、煩い!! 煩い!! こちらとて遊んでいるわけではないわ!!」
「あたりまえでしょ。 遊ばれてちゃ堪らないわ」
顔を赤くして言ってきた王に、楓は少しクールダウンして吐き捨てた。
「見つからないなら、他国に落ちたとも考えられるわね…。 他国から何かそれらしい反応は無いの?」
「……くっ、貴様は」
切り替えて事務的に聞いてくる楓に王はギリと奥歯を噛む。
「まさか、そこら辺押さえてないわけないわよね? で、どうなの?」
まるで立場が逆転している物言いに、王は一度深呼吸し口を開く。
「他国に強力な魔術師が現れたという情報は今のところ入っていない」
「そう……、私、彼女にイストーラの魔術師の隊服着せて送っちゃったから…まかり間違ったら…」
「イフェストニアだと捕まるだろうな。 フェルデュ帝国ならば問題なかろうが」
楓は不安を押し出すように深く息を吐き出した。
「とにかく。 捜索の手は緩めないで、他国に居る間諜へどんな些細な事でもいいから報告するように言って」
そして、と続けて、ずいと王に詰め寄り下から睨み上げる。
「アンタも、きっちり報告に来なさいよ? 今度こんなに間を空けたら…わかってんでしょうねぇ」
ぎろりと睨まれて、一国の王は頬を強張らせる。
「も、勿論わかっておる! 週に1回はっ!!」
「3日に1回よ。もし、何か手がかりが掴めたなら直ぐに」
「わ、わ、わかった!!」
しかし、それからも良子の行方はつかめなかった。
それは突然だった。
夢の中に良子が現れた。
やっと良子が願ってくれた!
驚いたことに良子はイフェストニアに居るという、そして、そこの軍の人間の従者をしていると言うではないか。
幸いなことに”面白い”という言葉がでるくらいには、不幸な境遇に陥ってはいないようで、少しやつれた感もあったが、健康そうでホッとした。
「良子と夢で会ったわ」
3日に1度、夢の中に訪れる王に、楓はそう告げる。
「そうか! その割には嬉しそうではないな。 …問題でもあったのか?」
促す王に、楓は口を開く。
「彼女は今イフェストニアに居るんだけど。 ねぇ、伍番隊の隊長って知ってる?」
じっと見つめてくる楓に、王は頷く。
「噂ぐらいだが。 確か、伍番隊とはイフェストニアで1・2を争う実力派部隊だ、そこの隊長は実力でのし上がった、あちらでは珍しい貴族出身ではない隊長だったはずだ」
「で、人となりは?」
「そんなもん知るか。 一介の部隊長等のことをいちいち覚えているはずなかろう」
無言で王の膝裏に蹴りを入れ、黙らせる。
「お、お前は本当にっ!!」
「煩い。 わからないものは仕方が無いわね…。 良子はその伍番隊の隊長サンの所で従者をやってるらしいの、どうにか接触して」
懇願の響きを持つその願いに、王は頷いた。
「わかった、少し時間は掛かるかもしれないが、やろう」
そこでやっと楓の頬が緩んだ。
ミス修正しました
間違いを発見くださいましたら、どしどしお知らせください
心よりお願い申し上げます<(_ _)>
(一応見直しはしてますが、思い込みでスルーしてしまうことが多々あるので…)
H22.8.18
さらに修正…orz
良子が異世界に行かされた理由追加(一番大事なところをスコンと抜かしていました…あぁぁぁ....)
H22.11.25