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6話 捕縛

「ジェイ、拘束しろ。 連行する」

 隊長と呼ばれた、凶悪な程鋭い目つきの男の人が短くそう言うと。

「了解」

 背後から来た人にホールドアップしていた手を強制的におろされて、体にくっつけたままぐるぐる巻きに…簀巻きにされた。


 簀巻きのまま馬の背に荷物のように乗せられる。

「……なぜ、私の馬に乗せる」

 隊長の、低くうなるような声が聞こえ、この馬が隊長の乗る馬だと気づく。

「だって、俺の馬には荷物積んでますから。 大丈夫、こいつ軽いからそう荷物にもなりませんて」

 か、軽い!? 確かに軽々と持ち上げられはしたけど…軽いと形容するほどでは…。

 それにしても、馬の背にでろーんと横に乗せられるのは…なんというか、バランスが、難しいです。

 馬もじーっとしてはいないから、足踏みとかするんだけど、その度に落ちそうになってひやひやしながらバランスをとって体勢を整える。

 いやいや、馬って結構高さがあるから落ちたらしゃれになりませんって!

 せめて足から落ちたいです! 顔は、いやっ!!

 必死でバランスを取っていると、重いため息が聞こえ、ぐっと一瞬馬が沈み込んで、わたしの横に隊長が乗った。

「仕方ない。 余計な時間を取った、急ぐぞ」

 言いながら、わたしを持ち上げちゃんと座らせる。

 いやいやいや、ちゃんと座らせてもらっても、この簀巻きの状態で乗馬なんて無理ですからっ!!

 足にちからを入れて馬の背を挟んでみても、上半身が安定しないから、馬が歩き出したら落ちること必至。

 そう思って一人でおろおろしていたら。

「動くな」

 頭上で冷えた声がして、ぐいと後ろに引っ張られ、後ろに乗る隊長に縄でくくりつけられた。



 結局ですね、簀巻きで乗馬は無理なんですよ。

 いくら縄でくくりつけてもらっても、無理!

 

 そんなわけで、わたしは今隊長の後ろに座り両腕を隊長の前に回してその手を拘束された上で、隊長ごと縄で縛られてます。


 気分は『むぎゅぅ』ですよ。

 隊長、細く見えるくせに筋肉質で体格が良いから、腕を目一杯伸ばしてる状態で手が縛られてるわけで、顔が隊長の背中にびったりくっついて……馬の歩く振動で顔がこすれて痛いんですよ。


 捕虜? の身の上なので不平不満なんていえるはずもありませんけどね。

 邪魔だからって切って捨てられても困るし。


 だから、お尻が痛いのも我慢、おなかがすいてるのも我慢……トイレは…も、もう少しなら我慢できるかな。



「も…無理……」

 馬の振動が無ければもう少し我慢できたかもしれないけど。

「すみませーん、おトイレしたいですーっ」

 少しだけ背中から顔を浮かせて、叫ぶ。

「………」

 あれ?聞こえなかったのかな?

「止まってくださいー! おしっこ漏れそうです!!」

 さっきよりも大きな声で、緊急事態を知らせる。

「………」

 絶対聞こえてるはずなのに!

「後ろで漏らしてもいいんですかっ!」

 言った途端、手綱が引かれ馬が止められる。

 やっぱり聞こえてたんじゃないか。



「あーあ、顔擦り剥けてるよ」

 最初にわたしを簀巻きにしたジェイと呼ばれる人が、縄を外してわたしを地上に降ろしてくれた。

 が、足が地面についたのに、膝がかくんと笑って…。

「た、立てない…」

 まだ、手を拘束されていないから何とか両手をついて立ち上がろうとするんだけど、生まれたての子馬のように…。

「何をしているんだ、貴様」

 冷たい声が降る。

「ちょ、ちょっと待ってください、ね、っと」

 なんとかふらふらしながらも立ち上がる。

「ご苦労さん。 手ぇ出して」

「あ、はい」

 すかさず両手首を縛られ、そこに長い縄の端をつなげられる。

 あー脱走防止ね。

「じゃ、すみません、ちょっとおトイレ行ってきます~」

 道脇の繁みの奥へ行こうとすると、縄を引かれて止められる。

「小便ならそこに立ってすりゃ良いじゃねぇか」

「は?」

 もしかしてこっちの女性は立ちションなのか?

「ジェイ、行かせてやれ」

「は? あぁ、大の方もか?」

 いやいや小だけです。

 と、言い返すのも面倒だったので、隊長が促すのにしたがって、道から見えないように繁みの奥へ入っていった。




 ふはぁ~


 なんて言うのかなぁ、ほんと、生き返る?

 両手拘束されてズボン下ろすのとか、かなり厳しいけど、間に合ってよかったぁ。

 ポケットにはティッシュも入れたまんまだったし。


 身づくろいして、縄を辿って道路へ戻ると…。



「ほ、ほぇ…」

 ジェイさんが倒れてて、隊長が交戦中でした。 

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