57話 睡眠妨害
お…重い……重い…。
寝苦しさに目を覚ませば。
なぜ、わたしのベッドにディーが居て、腕枕をしている…いや、むしろわたしは抱き枕?
「どうした、まだ早いぞ…」
眠そうなディーの声とともに、腰に回っていた手に力が入り抱き寄せられる。
背中がディーにくっつく。
「……なんで、ディーがわたしのベッドに居るんですか!」
「気にするな」
「気になりますっ!」
女性のベッドにほいほい入ってくるってどういう神経なんですかー!!
なんだか、凄くいい夢を見ていた気がするのに! すっかりスッポ抜けましたよ!!
凄く重要な事を忘れた気がする!
何だったっけ? ええと、懐かしい人…委員長? 木下委員長に会った…?
で、何か話しして……えっと…
「どうした…何を考え込んでる?」
耳元で、眠気を含んだ低い声に囁かれる。
耳朶に息が掛かり、背筋がぞくっと震えた。
「あ、折角思い出せそうなのに、忘れた!」
「…何を?」
上体を半ば起こし、ディーが聞いてくる。
ディーが起きた関係で、横向きで寝ていたのが仰向きになり、必然、見下ろすディーと視線が合わさる。
暗がりだから表情が良く見えないけど、先を促す雰囲気に口を開いた。
「学校のクラスメイトと会う夢。 その人がわたしをこっちに寄越した人で……、その人と何かおしゃべりしてたんだけど…」
言いながら、記憶を辿ろうと頑張るけど…。
「リオウをこっちに寄越した…」
あ、あれ?
ディーの声音が1オクターブ低くなった気がする。
「え、えっと、ディー?」
「リオウ……確認するが…、お前の故郷はイストーラのどこだ?」
えぇぇ!!! 今更ですかディーさんっ!!
真剣な視線を感じたので、そっと視線を明後日の方向に逃がす。
さ、さぁて、どうしよう!
どうにか、有耶無耶にっ!!
そ、そうだ、とりあえず、寝てしまおう! そうしよう!!
わたしの特技は3秒で寝れることだし!!
「リオウ」
シーツを口元まで引き上げ、目を瞑ったわたしに、ディーの低い声が落ちる。
これは、あれだ、不機嫌とかそういう声じゃなくてね?
「寝るのか? リオウ? 話の途中だぞ…?」
魔王ですよ…魔王降臨。
駄目、目を開けて反応したら負けだ!
「いい度胸だ、リオウ」
故意に耳元で囁かれ、そのまま耳朶がねっとりと熱く舐められる…耳朶だけじゃない、耳の端を食まれ、穴に舌を突っ込まれる。
ぞくぞくする感覚に、身じろぎしたいのを耐える。
耳を弄っていた舌が、唇が、首筋を伝う。
「リオウ? このまま寝ていても良いが…あとで、文句は言うなよ?」
な、な、なんですか!?
こ、これは明らかに危険信号?!
寝巻きの裾からディーの手が潜り込んできたところで、ギブアップ!
「ご、ごめんなさいぃぃ!!!」
身を捩じらせて、ディーの魔手を服の下から追い出す。
「ふ…最初から素直にしてればいいものを…」
目を開ければ、正面にはディーの苦笑を含んだ目が間近にあった。
あ、怒ってない…。
ほっと体の力を抜くと、ディーの唇が落ちてくる。
短いキスを繰り返し、頭を撫でられる。
ほぼ毎日のキスのせいで、キスは馴れた…凄く、馴れた!
口腔を弄るようなキスが”血の盟約”とはあんまり関係が無いこともうすうす気づいてる。
…というか、多分、唾液による血の盟約も、本当に血でする盟約と同じで、頻繁にする必要は無いと思う。
だって、血の盟約は体液なら何でも良いらしいし、だとすれば、唾液だとしても血と同じような期間効力を発揮されるのが本当。
それに、血の盟約自体……いや、それは別にいいや、盟約の意義を突き詰めたところで、現状が変わるわけでもないし。
だから、ディーがするキスの意味はきっと……。
それを拒否しない理由は…考えちゃ駄目だ。
わたしは、日本に帰るんだから。
「…リオウ、何を考えている」
唇に落ちていたキスが、目元に落とされる。
「泣きそうな顔をしている……」