54話 試食
「ぐぁっ、頭がキーンっと!! なんだ!? 病気か!?」
「バル隊長、一気に食べるとそうなるんですよ、病気じゃないのでちょっと我慢してみてください」
「リオウ、練乳が足りない、もう1瓶出してもいいか」
「陛下、掛け過ぎです、もうありません」
「リオウさん、この白くて丸いものは何でしょう? これもトッピングですか?」
「アルさん、次は宇治金時にしますか? ちょっと器貸してください」
「ウジキントキですか? え、ちょ…その緑の液体は……小豆、甘く煮てあるのですか……ああ、これに白いのを」
「白玉です。 はい、アルさん、どうぞ」
アルさんの前に宇治金時を出すと、警戒しながらも口にし、それからはお気に召したのか、がつがつと。
本日は久々にお城に出てきました。
仕事じゃなくて、試食会ですけど!
陛下の部屋と仕事部屋に有る冷凍箱で作った氷を使い切る勢いです。
これは、あれですね、皆さんおなか壊すの確定!!
バル隊長7杯食べたし、アルさんも5杯、陛下も5杯。
わたしとディーは既に試食済みなので、2杯ずつで。
「うむ、想像以上に使えそうだな、これは」
すっかりお腹が冷えたらしい陛下は、お腹を片手で庇いながらも、にやりと笑う。
……にやり?
「そうですね、取り合えず城内で、様子を見ますか」
えぇと、バル隊長?
取り合えず、今わたしが取るべきことは、聞かなかったことにすることですね、うん。
そそくさと使い終わった器を下げるべく、お盆を持ち出しちゃっちゃと回収する。
いつも以上にてきぱき動き回り、給湯室に下がる。
ああ、危ない危ない!
迂闊に、面倒ごとに巻き込まれるところだったヨ、間違いなく!!
何で善良な一般市民にああいう話をぽろっと零しますかねぇー! まったくもう!!
ああもう、洗物も思いのほか少ないし!
すぐに終わっちゃうじゃないか。
それでも、ぐずぐずとふきんを洗ったり、シンクを磨いたりして部屋に戻る時間を引き延ばす。
延ばす。
延ばす。
延ばす。
「いつまで洗っている気だ。 いい加減、布が擦り切れるぞ」
後ろからディーにふきんを取り上げられて、敢え無く部屋に連れ戻される。
「そういうわけだ、リオウの考案した“カキ氷”を使わせてもらうぞ」
どういうわけですか、と、突っ込んだら負けですね、陛下?
「どうぞ、どうぞ、好きなだけ使ってください。 ただし、わたしが関与していることは秘密で!」
「わかっている。 製造はオッドの工房で行う、カキ氷機自体もあと数台製造し、冷凍箱も数箱作ってもらうことになる」
それは決定事項ですね。
それでも確認の意思を求めていたので、こくんと頷く。
魔法を掛けるだけなら構わないですし。
それから、すぐに解散となり、陛下はこっそりと自分の執務室に帰っていった。
こっそり…?
この国で一番偉い人のはずなのに、こっそりするのが多いなぁ。
やっぱり、偉いと色々面倒で大変なこともあるのかな。
「リオウ、すまないな」
凄く久しぶりにディーと一緒に帰宅する道、城門を過ぎて少ししてディーが口を開いた。
「えぇと、それは、わたしが何かに巻き込まれていることに対してでしょうか?」
「……そうだな」
「じゃあ謝らないでください。 わたしは何にも巻き込まれてません、わたしはわたしの欲望の為に技術を提供しているだけです、だから謝られることなんて何もないです」
言い切って、隣を歩くディーを見上げる。
ディーはほんの少しだけ顔を強張らせ、それでも小さく口元を緩めてわたしを見下ろす。
「そうか…お前がそういうなら、謝らないでおこう」
そうしてください。
わたしがしたことで、何かが変わるような、そんな事に関われるほどわたしは大物じゃない。
だから、わたしを巻き込まないで。
願わくば…委員長、早く、早くわたしを迎えに来てください。