52話 陛下の冷凍箱
あれから3日、えぇ、あれからおとなしく引きこもってます。
買い物をするときだけ、ディーと一緒に外に出られます。
女装…?して、出かけています、女装する意味は良くわかりませんが、ディーの機嫌が良いので、良しとします。
そんなわけで、目下のわたしの楽しみは食事です。
朝買出しした食料で夕飯を作るデース。
デザートも作り置きするデース。
最近暑い日が続くので、カキ氷が食べたくてしょうがないのデース!!
暇なので紙にデッサンを描きます。
無骨で実用性重視の、手回しカキ氷製造機!
そう、海の家とかでよく見るあのカキ氷機が欲しいのです。
練乳…苺シロップ…ブルーハワイ…レモン……宇治金時……しろくま………。
ソファーの上で、思いつく限りのカキ氷を思い描きクッションを抱きしめて身悶えていると。
「……腹でも痛むのか?」
「ぎゃぁっ!! ディー!?」
ソファ越しに頭上から降ってきた声に、飛び上がる。
「どうしたんですか! まだ午前中ですよ!?」
恥ずかしさを隠すようにまくし立てると、ディーがそれだけ元気なら問題ないなと、小さく笑った。
…あぁもうっ!!
んで、従者の服に着替えて連れ出された先は、お城の鍛冶屋さんの経営する街中の工房でした。
「す…凄っ……」
その手の込んだ調度品に、目を丸くする。
寸法が先日陛下と話してた物と同じ感じだから、コレが陛下の用意した冷凍箱なんだろうけど…これなら冷蔵箱だなんてバレやしないです、どう見ても素敵な調度品、花瓶とか上に置いたらばっちりですね!
扉も一見して何処にあるか判らない、職人の技を感じます。
そしてコレを2日で作り上げた心意気も! (あとで聞いたところによると、一から作ったわけじゃなく、既存のものを加工したらしい。 なぁんだ)
扉を開けると、中はもう鉄板が貼り付けてあって準備万端になっていた。
「どうだ、これで良いのか?」
しげしげと見ていたわたしの頭上に、声が掛かる。
見上げると、やっぱり陛下。
…また、市民の服だし、お城を抜け出してきたんですね。
陛下って暇な職業なんでしょうか…いや、そんな筈あるまい。
それほどまでに、冷凍箱を待ち望んでいるということなのか!?
「バッチリです! あとはコレに魔法を掛ければ完成です」
「よしわかった。 オヤジ、向こうの部屋を借りるぞ」
「おお? 何か面白ぇことでもすんのか? こんな妙なもん作って」
いつもは城にいる鍛冶屋のオヤジさんが珍しく街に下りてきてる。
オヤジさんとお弟子さんで隣の部屋に運んでくれた……重厚なだけあって、凄く重そうですね。
バレて良いなら”重力二分の一”の魔法で軽くして運ぶんだけど。
隣の部屋には初めて入ったけど、作業部屋の半分くらいのサイズの部屋、どうやら仮眠室とかそんな感じ。
人払いがされて、部屋の中には陛下とディーとわたしだけになった。
あれ? 陛下も?
いいのかな、と思って確認するようにディーを見上げると「構わん」と言われた。
「お主の操駆は珍しいと聞くからな、一度見てみたかったんだ」
「そうですか? わたしなんかより、他の人の操駆の方が見てて面白いと思いますが…」
「まぁ、確かに見世物としては面白いがな」
苦い顔をしたのはなぜかな?
「ちょっと考えてたんですけど、この箱を開けられるの陛下のみに設定する魔法も一緒にかけておいたらどうでしょう? まかり間違って関係ない人が開けないように」
家でお留守番している間に、実験済みですよ。
わたしが設定した人物以外には開けられないようにする素敵魔法。
ついでに、無理やりこじ開けようとした場合、自爆するとかいう付加価値も付けれたヨ?
自爆機能を説明したら、陛下に却下されちゃったけど。
右手を胸にやり、その手を前に伸ばし、小指から折り込み握り締め、その手を箱の上にかざす。
「”冷凍・効果継続、開閉は陛下のみに設定”」
これでオッケー。
一応、陛下以外の人が空けれなくなっているか確認するために、わたしがドアを引っ張ってみるが、うんともすんとも言わない。
正面を陛下に譲って、ドアを開けてもらい、中を確認する。
「おぉ!! 冷えておる!!」
感動している陛下…まるでコドモのようだ。
「それにしても、いろんな意味で型破りな魔術師だな」
開けたり閉めたりして冷凍箱を堪能していた陛下だったが、ひとしきり楽しんだのか、立ち上がるとわたしに向かってそう言った。
それが褒め言葉なのかは良くわからないが…今なら、陛下にお願いごとをしても聞いてもらえそうな気がするの!
「ねぇ陛下、カキ氷って知ってます?」
「カキゴオリ? なんだそれは」
突然の話題転換に、訝しそうな顔をしつつ、先を促してくれた陛下に、カキ氷の何たるかを説明する。
中略
「よし! そのカキ氷機を作ることを許可する!」
「ひゃほー!!」
「……陛下…リオウ…」
疲れたようなディーの声は、あえて聞こえないことにするわたしと陛下でした。