48話 お留守番 2
大体、つい昨日自分のことを切りつけてきた人物に恐怖心を抱かないなんて無理でしょう!
でも、バル隊長がティス家のことを調べてるっぽいし、それを邪魔するようなことはできないから、できるだけいつもどおりに! 頑張れ自分!
近づいてくるオルティスに膝が震えそうになるのを、根性でこらえる。
「やっぱりリレイか。 急に辞めるから心配した」
なんですか、その笑顔…。
王宮での兄と喋ってるときの、あの冷めた顔はどこに置いてきたんですか。
…という、感想は胸の奥にしまっておこう、顔に出そうだ。
「すみません、急に決まったことで、ご挨拶もできずに」
垣根に近づいてくるオルティスにペコリと頭を下げる。
「いや、本家にも色々と都合があるのだろう。 それにしても、今は此処で働いているのか?」
一瞬探るような視線に、首を傾げる。
うーん、ここで、メイドとして?
「そういうわけでもないです」
「? 此処がお前の家というわけではないだろう?」
眉根を寄せるオルティスに頷く。
「はい、違います」
ここはディーの家、わたしのお家ではないです。
「で、何をしているんだ?」
「は? 見てわかりませんか? 洗濯ですよ」
「………お前と話すと疲れるのは、俺だけだろうか…」
本当に失礼な人ですよね!
「お疲れになるなら、早く帰ったらどうですか。 全く、こんな昼間っからこんなとこぷらぷらして! 学校はどうしたんですか、平日だから勉強あるでしょう」
「…っ、本当にお前は…っ。 俺を敬うということが無いよな」
うやまう? なんで? 敬う要因がどこにあるの?
首を傾げるわたしに、オルティスが青筋を立てる。
えぇぇー? どうして?
「だって、敬うっていうのは、その人に対して尊敬とかできないと、敬う気持ちなんか出てこないでしょう?」
「ほ、ほほぉ? 俺に尊敬できる部分は無い、と?」
引きつった顔でそう問われ、考えてみる。
「んー、お屋敷に勤めていたときはご飯もらえたけど、今はもう関係ないし?」
ビキッ
と、音が聞こえそうなほどオルティスが固まった。
あれ、や、やばい?
「そうだな。 じゃあ、今から美味い飯でも食いにいくか」
気を取り直したオルティスが言った言葉に、ぽかんとする。
ええと、そんなに敬ってほしいのかな?
「残念ですが、まだ洗濯物が残ってるので行けません」
乾かさなきゃなんない服が、こんなに…、あと1籠残ってますよ。
「また今度お誘い願いますね~」
にっこり社交辞令。
「……洗濯が終わるまで待っている、さっさと終わらせろ、すぐに終わらせろ」
「ひ、人の話はちゃんと聞きましょうよ…」
腕組みをして仁王立ちするオルティスに、力が抜ける。
「ここは確か、伍番隊隊長の家だったな。 で、ここに勤めているわけじゃなく、お前はなぜ此処で洗濯している?」
オルティスの視線が上から刺さってくる。
さ、さぁて、どう言えば話がとおるかなぁ…。
「一緒に飯を食ったら、些細なことは忘れそうだ」
「…お、お供させていただきます…」