46話 給与明細 6
「バル隊長に貰った給料明細でお金貰いに行ったら、わたしの名前が登録されてないから無効ですって言われて明細を没収されたんですよ」
強制的に乗せられたディーの膝の上で憤慨する。
本当にむかついたのは、”主人も主人なら従者もだな”のセリフ(と態度)なんだけど。
わたしはともかく、ディーを馬鹿にすんなぁぁ!! って。
でもそれはなんだか言いにくかったので、内緒。
「…ところで、登録って何ですか?」
「一応どこの部署の誰に所属している従者なのか届けは出すものだが。 六番隊からの経費は性質上、そんな届けなど無視できるはずだ」
バル隊長がお茶を飲みながら唸る。
ってことはですね? あの根性悪イルティスの懐にしまわれたわたしの明細書はまだ生きてるってことですよね?
…と、言うことは……。
思い当たり、固まる。
「早まるなよ、リオウ」
ディーの腕が胴にまわり、引き寄せられる。
早まりませんよ! 大体、報復するちからなんて持ってないもの!!
八つ当たり気味に、後頭部をディーの肩にぐりぐりと押し付ける。
口を開くとムカつきのあまり泣いちゃいそうだから我慢するけど!
こんなに人の居るところで泣いたりなんかしないし!
「それにしても、リオウ? 今朝、家でおとなしくしていろと言ったのは、もう忘れたのか?」
わたしが落ち着いたのを見計らって、ディーの低音が頭上に落ちる。
えーと、”休んでいろ”っていうのは”おとなしくしてろ”ってことだったんですね?
慌ててディーの膝から降りる。
「買出し行こうと思ったんだけど、お金がなかったから、換金しようと思っただけです」
腕を掴まれて引き寄せられ、足の間に立たされる。
み、見下ろしながら怒られるのって…ちょっと…。
「私と一緒の時に行けばいい。 当分の間、家でおとなしくしていろ」
むーっ!
なんですかそれは! 外出も自由にできないってことですかー!!
なんて、歯向かったところで、無理なんだろうけど!
「…そうだな、当分は家でおとなしくしていた方がいいだろう」
バル隊長まで!
「聞いたぞ、肩を切られたんだろう?」
そんなのもう治したし!
「そうだ、リオウさん。 私が後で差し入れを持っていきますから」
…なんなんですか、皆して。
そんなに家に閉じ込めておきたいんですか…。
「…わかりました……帰ります…」
なんだか外された気分…。
今までが、有り難い事だったんだよね…。
机並べて仕事したり…そうだよね、従者って名目だけど、わたし他所の人間だし…。
一緒に仕事してるときって、大変だったけど楽しかったんだなぁ…。
お家でおとなしく、してよう。
リオウの悄然とした後姿を、三人の男たちはそれぞれのおもいを抱きつつ見送った。