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43話 給与明細 3

 あぶないあぶない!

 修練場で訓練しているディーの所にお茶を持っていくの忘れるところでしたよ!



 冷えたアイスティーを入れたポットを持って廊下を急ぎ足。

 もう大丈夫! 面倒だったけど、2階までの王宮の構造は覚えたから!(やる気さえあれば覚えることが可能、気を抜くと忘れる)

 迂闊に末姫様リーチェとかに会わないように、最短ルートを通りますよ。

 本当は”光学迷彩”を使って走って行きたいところだけど、ばれると色々マズイので地道に。


「遅い、何かあったか」

 ちょっと息を切らせてディーの元へ行くと、既に休憩に入っていた。

「しょ、書類に集中しすぎて、遅れてしまいました、すみません」

「何も無いならいい。 お前もちゃんと休めよ」

 そっと労わるように頬を撫でられ、差し出していたコップを取られる。

 っつ! 勝手に熱くなる顔よ! おさまれー!!


 胸の中で頑張って気持ちを落ち着けながら、ディーのコップにお代わりを注ぐ。

 好きだと言われて、結婚したいと言われて、平気でいられるかってんですよ!

 乙女な女子高生をなめんなー!!


 と、こころの中で叫んでおきます。

 本人には言えません、恥ずかしくて言えません。

 もうっ!もうっ!!



 早々に引き上げて、2階へ戻る途中に思わず悲鳴を上げるところでしたよ!

 な、なぜオルティス様がこんなところへ!?

 階段を下りてくるオルティス様、階段を上がっているわたし…ここで急に進路変更したら怪しまれること請け合い!

 なので、顔を俯けて、階段の端に寄る。

 向うはあからさまに貴族系の服を着てるし、一緒にいる人もそんな感じだから、道をあけるのに何もおかしいことはない。

 従者如きに声をかける貴族なんてそうそう居ないし、大丈夫! きっと大丈夫。



「そうか、二人共引き上げたか」

「はい、一人は夜逃げ、もう一人も本家が引き取りにきました」

「で、何も変わったことはなかったんだな?」

「…そうですね、とられたもの等はありませんでした、が…」

 階段を下りてゆく二人の背中を見つめる。


 ええと…、なにやら不穏な会話、ですね?

 さっと周囲に視線を走らせ、操駆をし”光学迷彩”を自分に掛ける。

 これで、誰の目からもわたしは視認できない。


 足音を殺して二人についてゆく。


オルティスが周囲に人が居ないのを確認し、小声で横にいる男に伝える。

「本家から斡旋された娘が、平気でウチの警備をかいくぐってました」

「っ…それは本当か」

 焦る声にオルティスが頷く。

「3日に1度ですが、夜に所用で私の部屋に呼び出しておりましたが、その際に1度も警備に掴まることなく私の部屋まで来てました」

「密偵にしては迂闊だな、もし掴まらないだけの能力があったとしても、怪しまれないようにするために警備に見つかるなりなんなりするものだろう。 …それにしても、お前が部屋に招くとは珍しいな、その女が気に入ったのか」

 もう一人の男が、口元に好色な笑みを浮かべる。


 いやいやいや! 単にご飯を食べに行ってただけですってば!!

 ”光学迷彩”を解除して誤解を解きたいのを我慢する。


 オルティスは少し眉を上げて不愉快そうな顔をする。

「兄上の考えているものとは違いますよ。 彼女とはそういう関係ではありません」

「彼女ねぇ。 敵の手の者に情を移すなよ。 まぁ、寝首を掻かれん程度に遊ぶのは構わんが」

 あそ、あそぶってなんですかー?

 それにしても、兄上・・ですか、ということはこの人が次男?(流石に長男の顔は覚えた、あの総務局のすかした野郎ですよ)

 次男はリーチェの護衛の人だよね、そういえば、前に修練場にわたしを探しに来た人だっけ?

 立ち止まって首をかしげ、思い出そうとする。




 チャキッ



 剣を抜く音がして、振り向きざまオルティスが剣を一閃した。


 っつ!!!


 立ちすくんでいたのが幸いして、剣先が左肩を掠める程度で済んだし、びっくりしすぎて声も上げなかった。


「どうした、オルティス」

「……いえ…何か気配がしたものですから」

 剣を鞘に戻したオルティスだったが、その何もないはずの空間に視線を合わせたまま、暫し目を離さなかった。


 片手で口を押さえ、必死に悲鳴を耐え、もう片手で切られた左肩を押さえて、血の滴るのを防ぐ。

 …背中を冷や汗が伝う。


「気のせい、だったようです」

「そうか。 一応ここも王宮内だ、人が見てないとはいえ、無闇に剣を抜くものじゃない」

「すみません、兄上」

 身を翻して行くオルティスの背中を見送る。

 

 左肩を押さえた指の間から血が滲む…。


 ハンカチで傷口を覆い強く押さえる。

 血を垂らすわけにはいかない。


 大丈夫、痛くない、痛くない、痛くない!!



 あぁ、そうだ魔法…。

 操駆して、傷口に手を当て”頑張れ白血球”と唱える。

 血が止まり、痛みが引いてゆく。

 手をどけるとこんもりしたピンク色の傷口になっていた。

 痛みのせいか、イメージが決まらず完璧に傷が無くならない。

 まぁ、それでも、こんだけ治れば十分か。

 魔法素敵ー…。


 まだ”光学迷彩”は解除できないよね、このあからさまに切られた肩口とか怪しいしね。


 

 ちょっとだけ、ちょっとだけ休憩。

 階段の踊り場の、人の通行の邪魔にならない隅っこに腰を下ろし、ポットを横に置いて膝を抱える。






「っ! リオウ!! リオウ!! どこに居る!!」

 焦るディーの声に、意識が持ち上がる。


「ディー?」

「リオウ!? ここに居るのか?」

 あぁ、寝ちゃったのかわたし…。

 目を開けると、すっかり暗くなっていてびっくり。

 踊り場できょろきょろしているディーに、光学迷彩を解除していないのに気づいて、慌てて解除する。

「リオウ!!」

 突然姿を現したわたしを、驚きもせずにぎゅっと抱きしめる。

「リオウ、リオウ!」

 ど、どうしたんだろうディー。

 寝ぼけた頭で、なぜ自分がここにいるか思い出した。

「ディー…」

 ディーの背中に手を回し、ぽんぽんと背中を叩くと、きつく抱きしめていた腕を解かれる。

「リオウ、さっきの消える魔法はもうやめてくれ…頼む」

 真剣な視線に射抜かれて、反射的にこくりと頷くと、頬にキスを落とされた。




 足が痺れて立てなかったので、手を貸してもらってなんとか立ち上がる。

「…リオウ、これはどうしたんだ」

 切れている左肩の服を見咎められる。

 傷口は治したけど、服は切れたままで血もついている。

「誰かに襲われたのか!?」

「な、治したから大丈夫だよ、ちょっとびっくりしちゃったから動けなかっただけで」

「治した…」

 そう、だから大丈夫だよ。

 ちょっとびっくりしただけ…それだけだから。


 だから、大丈夫だよ…。




 安心させるように微笑んで、糸が切れたように倒れたリオウをとっさに受けとめる。


「デュシュレイ隊長! こっちには居ま…、あ、見つかったんですか」

「…あぁ」

 一緒に探してくれていたアルフォードが合流し、デュシュレイの腕の中のリオウを見て眉根を寄せる。

「大丈夫ですか!? 急いで医務室に!」

「いや、怪我のほうは問題ない。 申し訳ないが、ロットバルド隊長にリオウが見つかったことを伝えてもらえるか、私はこのまま帰宅する」

「了解しました。 お気をつけください」

「ああ」

 アルフォードの見送りを背に、デュシュレイはリオウを抱き上げ、王宮を後にした。  

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