39話 求婚されても困るわけで
「それでも私はリオウと共に在りたい」
そう言ったディーの目は、真剣だけどわたしを追い詰めるような激しさは押さえられていて、真摯にわたしに伝えようとくれている。
えぇと、ディーってこんなんだったっけ?
凍えた視線とかが得意で…、数字関係の書類が苦手で、剣が強くて、家事なんてする気はかけらもなくて…じゃなくて、仕事重視で家にもなかなか帰らないで…。
ちゃんと見張ってないと食事も適当で、そのくせいいガタイしててわたしなんか軽々と持ち上げちゃって、その上、キス魔…えぇと、それは魔法を効かなくするとかなんとかって理由はあるけど、それならジェイさんや王様みたいに血を舐めちゃえばいいのに、ソレは拒否される、拒否しておいてキスをする。
あぁぁ!! そうじゃなくて!!
結婚! 結婚してって言ったよねこの人!
何で結婚!? 一足飛びに結婚!?
これはアレ? やっぱり色々と便利だから手元に置いておきたいとか?
それが一番有力だよね! だって、わたしが居れば家の事は魔法でぱぱっとできるし、数字関係の書類もやれるし!
「リオウ? 私は言っただろうか、お前を好きだと…」
「っ!!」
こ、この人はっ!!!
は、は、恥ずかしげも無く…もないのか? ディーの耳が赤いのは、夕日のせいじゃないみたいだ。
ディーの手が頬に掛かり、無骨な親指がそろそろと頬を撫でる。
はっと、大事な事に気づく。
こ、これはマズイ!
どうしよう!! どうしよう!? わたし、ずっとここに居るわけじゃないじゃない! 委員長が迎えに来たら日本に帰るんだから!
だから、どうしたってディーと結婚なんかできるはず無いんだってば!
だけど、それをそのままディーに言うことはできない。
こことは違う世界から来ましたなんて、性質の悪い嘘にしか聞こえないと思うし!
だから、なんとか穏便に!
!
きらりんとこたえが閃いた。
「ディー! あのですね、わたし未成年なので、保護者の同意がなければ結婚できません!」
あ、ディーがぽかんとした。
「…未成年、なのか?」
「はい! 成人まであと2年半程あります!」
ただいま17歳なので!
「2年半……」
ふっふっふ! 2年半もあれば委員長も迎えに来てくれるでしょう!
呆然としているディーに、にっこりと笑う。
「はい! 2年半です!」
どうだ、参ったかとばかりに!
がっくりと俯いたディーは、肺の中の空気を全て吐き出すように深くため息を吐いた。
「……わかった、2年半だな」
ぐいっと手を引かれ、ディーの腕の中に囚われる。
倒れこんだ腕の中から見上げたディーの目が鋭く光る。
え? あれ? なんですか、そのやる気満々なお顔は…。
「2年半あれば、私のこの思いを十分思い知らせることができそうだ、覚悟をしろリオウ……愛している」
うわぁぁぁん!!
そんなの愛の告白じゃないやい!!!!
わたわたと逃げ出すわたしの耳に、くつくつと愉快そうに笑う声が聞こえたのは気のせいなんかじゃないはずだ!!
ディーの馬鹿ぁぁ!!