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38話 ディーの暴走

 上気した頬で、潤んだその目で。


「ディーの、ばか…」


 そのセリフにどんな効果が有るのか判っているのだろうか。

 膝の立たないリオウを腕に抱き、押し寄せる衝動に理性の蓋をする。

 時間を掛けてじっくりと嬲るようにしたキスのおかげで、少し頭が冷えた。


 リオウを横抱きにして、居間へと入る。

 こんな時でもしっかりと落とさなかった果物入りの袋を取り上げ、テーブルに置く。


「あ、切って冷凍箱に入れないと」

 もぞもぞと腕の中から下りようとするリオウを制する。

「明日でも大丈夫だろう」

「駄目! わざわざ完熟したの買ってきたんだし! 今から入れておかないと明日の朝食べられないです」

 食べ物…特に、デザートに関することはなかなか妥協しないリオウなので、諦めてそっと床に下ろしてやる。

 案の定転びかけたので腰を支える。

 もう少しこの辺りの肉付きが良くなってもいいな…。


「ありがとうございます…あの、もう平気ですよ?」

 しっかり立てるようになったリオウが、腰から手を離さない私に離れろと視線で訴えるが無視をする。

 何も返事をしないのに、私が引かないのを感じ取ったのかそれ以上言うのをやめる。

 本当に察しの良い娘だ。


 果物を洗い、切り分けるのを邪魔しないように気を付けながら、リオウにくっつく。


 どうやって、先程の件を聞き出そうか。

 そもそも、リオウは本当にイストーラの人間なのだろうか。

 イストーラにも黒目黒髪の人間はたくさん居るが、どうも…空気が違う。

 リオウは…なんというか、浮世離れしている。

 魔法にしても、なんにしても、どこか一線を画している。


「ディー、はい、あーん」

 切り損じた一切れを口元に出され、口を開けるように促される。

 素直に口を開ければ、そこに熟した果物が入れられる。

 こういうところが、なんというか浮世離れしている風に感じるのだが。


「…ディー、指は食べないでください」

 お前の指こそ甘いのに。

 惜しみながらも指を離し、かわりに腰にまわしていた腕に力を入れて抱き寄せる。

「ディー…あんまり邪魔したら、怒りますよ」

 本気で怒ったことなどないくせに。

 お前は私に甘いと気付いているのだろうか?

 いやがる素振りはみせるくせに、本気で拒絶することはないと…初めて口づけをしたあの時すら、拒否していなかったと、気付いているのか。



「よしっ! これで、久しぶりの冷凍フルーツが食べられるー!!」

 冷凍箱に果物を収めて喜んでいるリオウを拾い上げる。

「うわわっ! ちょ! ディー!?」

「ちゃんと待った。 次は私の番だ」

 抱き上げて、居間のソファへ連れて行く。

 本当はこのまま寝室へ連れて行きたいが…我慢しよう。




 膝の上に座らせて、逃げられないように腰に手をまわす。

「…ディー?」

 諦めたのか逃げることはせずに、おとなしく膝に座るリオウ。

 日も傾き、窓から入る夕日がリオウの頬を赤く見せる。


 思いのほか長い間手元を離れていたぬくもりをやっと取り戻せた。


 履き慣れないスカートの裾を気にし、膝をそろえて畏まって座っていたリオウだが、少しするとその姿勢がつらかったのか、ちらりと私の方を見た後、こてんと私の胸に背中を預けてきた。

 腰をまわり前で組んだ、私の手をいじる。


 ああ、なんだか…何もかもがどうでもよくなった……。



 もう手放さない、故国イストーラにも帰さない…いや、せめて両親に連絡ぐらいつけなければならないだろう、結婚するときに。

 時折話に出る雰囲気では、貴族ではないようだし、そう問題もあるまい。


 リオウの首筋に顔を埋め、リオウ独特のにおいを吸い込む。

「ディー、くすぐったい!」

 身をよじるリオウだが、腕から逃げることはしない。


「リオウ…結婚しよう」


 思いの丈を込めて囁いたのだが、リオウはびくっと背をふるわせて硬直した。

 ……なんだその反応は?


 擬音でも聞こえてきそうな程ぎこちない動きで、振り返るリオウ。

「え、っと、ディー? 今なんて?」

 これは拒絶なのか? まぁ、逃がさんが。

 硬い表情で振り返ったリオウの唇に、啄むように口づけを落とす。

「結婚しようと言ったのだ」


「えぇと、ですね? わたしたち、まだ出会ってから半年も経ってないです」

 リオウはするりと私の膝から下り、そのまま床の上にこちらを向いて座ると真面目な顔をして言ってきた。

「そうだな」

「第一、お付き合いすらしていません」

「そうだな」

 私もソファーを下り、リオウの前に膝をつき、綺麗に座っている両膝に置かれた手を取ると、その甲に口づけを落とす。




「それでも、私はリオウと共に在りたい」

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