34話 メイド 5
一体いつまでここでメイドしてればいいんだろうなぁ…。
ディーは、時期が来れば帰ってこれるって言ってたけど。
時期って何なんだろう、ディーが迎えに来てくれるのかなぁ。
それにしてもあれだねぇ、料理長、オルティス様の分とわたしら下っ端の料理と、手の込みようが全然違うのどうにかしてくんないかなぁ。
スープ1皿とパン2つだけってどうよ?
サラダとメインはどこ行ったのよー。
「ねぇ、リレイって時々夜中抜け出してるでしょ? 何してるの?」
イライアさんに突然きかれて、思わず飲んでいた食後の水を吹き出してしまった。
「…きたない…」
「ゴメンナサイっ」
大急ぎでテーブルを拭きながら、どう誤魔化そうかと頭をフル回転させる。
これは…しらばっくれるしかあるまい。
「で、どうなのよ。 抜け出して何処に行ってるの? 屋敷の外には出ていないんだから、屋敷内の誰かのところよねぇ?」
オルティス様ん所へ行ってるなんて言ったら、危険だ!
あの”めくるめく危険な世界の住人”にされてしまう!!
ぞぞっと鳥肌が立った肌を宥める。
「どこもいってないよ」
「うそおっしゃい。 そんなに目を泳がせて、ばれないとでも思ってるの?」
ひぁぁぁ! イライアの目がマジすぎて怖いぃぃぃ!
イライアの部屋に連行されて、ベッドの上に正座です(自主的)。
「もう、面倒だから言うけど、アナタ、伍番隊の人でしょ?」
ディーは確かに伍番隊の隊長だけど、わたしはただの従者だから伍番隊とは関係ないよ?
首を傾げると、イライアがちょっと慌てる。
「ちょっと! ただの民間人が、この時期アルフォード様の紹介で入ってくるわけないでしょ!」
「確かにアルさんに連れてこられたけど、ここでしっかりメイド仕事に励んでこいって言われただけですよ?」
本当のことを答えると、イライアは頭をぐしゃぐしゃと掻き回して、更にわたしを睨み付ける。
「あぁそう! その割りに、あの夜警の中、平気で部屋を抜け出して、さっさと捕まるかと思いきや、全然捕まらないわ。 かといって、任務を受けて遂行するかと思えば、それもしない! あなた一体何しにここにに居るの?」
「だから、メイドのお仕事を覚えに来てるんですってばー」
と答えると、イライアのこめかみに青筋が浮いた…。
「…じゃぁ、何で、夜中抜け出してんのよ」
沸点ね! イライアの精神状態、沸点間近ね!
もうのらりくらり、”めくるめく禁断の世界の住人”から逃げ出すことは無理ね。
「実は、ある人のところに、夜食を食べに行っております」
「…夜食…」
「ここの食事だと、いくら頑張っても5日が最高です、4日目から空腹で倒れそうになるんです、だから、ある人の所の夜食を横流ししてもらってます」
「ある人って誰よ…」
「オルティス様デス」
決してひるまず! 照れたりせず! 真正直に答えるべし!
うかつな反応は、うかつな誤解を生む!!
「…末っ子ん所かい」
「はい! とてもすばらしい夜食です! フルコースの如き夜食なんです! スープもサラダも主菜もデザートも付いてるんです! …流石に毎日だと申し訳ないので、我慢できる3日毎にいただきに行ってるんです」
「………じゃぁ、末っ子から夜警の時間帯や順路を流してもらってるのか」
納得しかけているイライアに首を横に振る。
「そんなもん教えてくれませんので、自分でパターンを分析してます」
「…どうやって」
イライア、怖いです、何をそんなに怒ってるんでしょう。
でも流石に、魔法を使ってとはいえないので、誤魔化さないと。
「うーん? ちょっと待っててね、今持ってくる」
とりあえず時間稼ぎに、隣の自分の部屋から夜警の時間帯や順路を書いたメモを持ってくる。
「…これって……」
「もしかして、イライアが知りたいのってこういうの?」
メモを見た途端、目が輝いたイライアに聞いてみる。
「そうよ! こんなに時間を掛けたのに、あたし全然潜入できなくて焦ってたのに、あんたがあんまりひょいひょい夜中抜け出すもんだからむかついて!! 真面目にメイドしてりゃ、さっさと部屋付きにされるかと思ったのに、洗濯や東屋の外仕事ばっかりで全然”仕事”にならないし! これがあれば、今月中に何とかなりそうだわ! ねぇあんた、これ、あたしに譲って!」
「譲ってもいいけど、どうやってこれを作ったかは聞かないでね? 聞くなら、これ燃やすし」
「聞かない! 聞かないから、お願い! あたしとリレイの仲でしょ~?」
こうして、屋敷の見取り図と、夜警順路・時間を書いてあるメモをイライアに進呈することになりました。