32話 メイド 3
最近では魔法なしでの洗濯も掃除もすっかり上手くなりました!
マージュ夫人ありがとう!
貴女が徹底的に仕込んでくれたおかげです!
これで、従者の仕事が駄目になっても、下働きでやっていける自信がつきました。
うふふふふ~
今日は3日に一度の夜食をたかりに行く日~。
軽い足取りで、見回りをかわしつつ二階の奥の部屋を目指す。
”熱感知センサー”の魔法であらかじめオルティス様が部屋に居るのは確認済み!
ココン
小さくノックすると、すぐにドアが開けられる。
「こんばんはー」
「おう、入れ」
開かれたドアの隙間からするりと体を滑り込ませる。
あぁ! 今日はサンドイッチですか! スープはレモン色の辛口スープで、付け合せの果物がたっぷり~!
期待に満ちた目で、オルティス様を見上げる。
「食べていいぞ」
「ありがとうございます!! いただきますっ!」
食後のほうじ茶が欲しいところだけど、この屋敷ではその習慣がないので、水で我慢する。
「ごちそうさまでした。 今日も美味しゅうございました」
手を合わせて感謝する。
オルティス様は今日も、にこにこしながら終始横に居た。
はっきり言って食べにくいんだけど、横取りしている分際で文句を言うのもアレなので我慢する。
食べ終わったトレーをドアの横のワゴンに片付ける。
「今日もいい食べっぷりだったな」
「はい! とても美味しかったです。 そういえば、オルティス様っていっつも何やってるんですか?」
流石にいつも食べて即帰るのも悪いかなと、ふと思いついたことを聞いてみる。
「…珍しいな、俺の事を聞くなんて」
「いえ、別に、さほど興味も無いので、言いたくなければいいです。 では今日もご馳走さまでした。 おやす」
「いや、待て待て! 別に言いたくないわけじゃない」
慌ててさえぎるオルティス様に首をひねる。
別に、言いたくなければそれでいいのに。
そうすれば、無駄話なんかしないで、即帰るだけなのになぁ。
ふと、机の脇に寄せられた本の背表紙に目が行く。
「…兵法書…ですか…。 これで、勉強しているんですか?」
兵法書、ってことは、戦の仕方ってことだよね。
「ああ、これでも士官学校の最終学年だからな、兵法は必修だ」
士官学校かぁ…。
「へぇ、そうなんですか」
「一応主席だし、それなりに将来有望なんだぞ」
自分で言ってれば世話ないですね。
「お前も知ってのとおり、わが国は現在西方への侵攻中で」
「しんこう?」
進行?でいいのかな?
「進むほうじゃなくて、侵略のための戦争を仕掛けようとしているということだ」
わたしの疑問、よくわかりましたね…。
「……戦争中なの?」
凄く平和そうなんだけど。
呆れたように、わざとらしいため息を吐かれる。
「子供でも知っていることだぞ? 今は西にあるイストーラを侵略する為に、準備中だ。 あと数年のうちに大きな戦争になるだろう」
イストーラ?
…えぇと、委員長がそこに行けって言ってた国だよね?
まぁ、いいか…?
あれ? 良いのか?
わたし、ディーの従者だし、ディーは軍人さん?だし、軍人さんは戦争に行かなきゃだし…ということは、わたしもディーに付いて戦争に行くことになるのかな?
え?
えぇ!?
さぁっと血の気の引いたわたしに、オルティス様は慌てて言い募る。
「今すぐというわけではないし、此処まで戦火が届くこともないから、そんなに青くなる必要はないんだぞ」
「……でも、戦地では、人が沢山死んだりするんですよね…?」
こわごわと、確認する。
「それは、勿論だ。俺達のような貴族出の仕官は、王都にて戦況の把握等をすることになるだろうがな」
ヘェ…貴族サマは、安全なところで、高みの見物ですか……。
「……じゃぁ、戦地での指揮は誰が取るんですか…」
声が震えないように気をつけながら、声を出す。
「そうだな…壱番隊と弐番隊は貴族が多くて王都警護のための組織だから、参番隊から伍番隊が出ることになるだろうな。 あぁ、六番隊は工作部隊だから、表に出る仕事はそうそうしないな」
……orz
やっぱり、戦地行きですか。
あぁ、このままここでメイドしてたい…けど、わたしの本来の仕事はディーの従者だし、ここでディーを見捨てたら寝覚めが悪いし……ディーって、案外要領が悪いから、フォローしてあげないとだし…。
魔法使えば、ディーを助けることくらいならできそうだし。(勿論自分の身の安全は確保した上で)
「貴族は良いですねぇ…、安全な場所で高みの見物で」
ちょっぴり荒んだ気分で、オルティス様に八つ当たりする。
「大体なんで、イストーラに侵攻しなきゃなんないんですか? この国そんなに小さいですか? そんなに資源が無いんですか? 国力に不安があるんですか?」
「……貴様、自分が何を言ってるのか、わかっているのか」
オルティス様の視線がきつくなるけど、ディーのほうが数倍怖いから平気。
「国民って、戦争すんの歓迎してるんですか? 大事な男手が取られて、下手してこっちに攻め込まれたら、家を焼かれて田畑を荒らされて…家族、殺されるんですよ? そんなもんしたいわけないですよね? 一体誰が、戦争をしたいんですかね? 誰が利益を得るんですかね?」
絶句しているオルティス様に、会心の笑みを向ける。
「じゃぁ、ご馳走さまでした~、お休みなさいませ~」
言いたいことの半分くらいしか言ってないけど、あんまり言い過ぎて首になるのもまずいし?
まぁ、このくらいで我慢しとこうか。