31話 メイド 2
おかしいです、なんだか、体に力が入りません…。
そう、これはあれです、空腹。
ちゃんと朝晩ご飯はいただいてますが、基本量が少ないしお代わりできないし、最近お昼にお茶の名目で軽食を食べていたから…そのぶり返しかなぁ……。
こっちの世界にきてから、明らかに食べる量が増えてるし…。
あぁ、空腹ってなんだか悲しい気分になってくるのはなぜなんだろう。
「リレイ、大丈夫?」
イライアが心配してくれるけど、大丈夫、おなかが空いてるだけだから。
ちょっと力無く微笑んで、大丈夫だと首を縦にふる。
お仕着せのメイド服のウエストが余ってます…最初、ぴったりだったのに。
なんだかとっても燃費の悪い体になってしまった気が…。
ホントに、もう駄目…。
アルさんごめんなさい…、わたし、台所に忍び込みます、そして、食料ゲットだぜ!
……いや、ホントごめんなさい、ごめんなさい。
夜中寝静まった屋敷。
無論、寝ずの番は居るから、玄関先などには近づかないように注意。
大丈夫! 見回りの時間もチェック済みだし、経路も覚えてるから!
空腹を覚えるようになってから、脳が勝手にチェックしてたの!
ごめんねー!
するりするりと、台所に忍び込む。
あぁ、大きな台所素敵!
これで冷蔵庫があれば完璧なんだけどなぁ。
ぐうぐう鳴るおなかを抱えながら、台所をあさる。
来るのは楽だったけど、食料の場所がわからない…。
生鮮食品は毎日調達だから無いにしても、乾物はあるでしょう!?
パンは!? パンもある程度保存が利くでしょ!?
「な…無い……」
台所の床にへたり込む。
「何が無いって?」
ぴぎゃぁぁぁ!!!
悲鳴を上げなかった自分に乾杯!!
後ろから掛かった声に、腰を抜かしそうになりながら振り向く。
「お前、誰だ?」
「貴方こそ誰ですか?」
反射的に聞き返してしまいました。
後ろに居たのは笑いをかみ殺してる、寝巻き姿の長身の青年だった。
あ、なんだか話のわかりそうな、優しそうな人だー!
「私かい? 私はこの屋敷の住人だな」
「わたしは最近こちらに雇っていただいた、メイドのリレイと申します。 いつもお世話になっております」
雇用主でしたか!
きっちり三つ指をついてご挨拶する。
「これはこれはご丁寧に。 で、リレイはここで何している?」
「…お、お恥ずかしい話なのですが…」
あまりにも恥ずかしくて、赤くなって視線を外してしまう。
「お、おなかが空いて、もうどうしようも無くて…、何か余り物でも有ればと…」
語尾が細くなるのも当然でしょう…、年頃の乙女が、残り物を漁りに来るなんて。
「ぷっ!!」
思いっきり笑ってくれましたねこの人。
じと目で見上げるわたしに気づいて、笑いをこらえる。
「悪い悪い。 そんなに腹が減ってるなら、こいよ、部屋に夜食が残ってるから」
あれ? なんだか言葉遣いがフランクに?
ま、いいや! ご飯!!
すたすたと前を行く寝巻きの青年について、ふらふらとついていく。
また、見回りの誰とも会わなかった、良かった!
いくら住人と一緒にいるって言っても、怪しまれるの間違いないもんね!!
2階の一番奥の豪華な部屋…って事は、この屋敷の三男さんですね、確かー名前はー、オルティスさんだったはず。
で、次男がーフォルティス? 長男はイルティス? みんなティス繋がりってことは間違い無し!
部屋に入ると、右側の壁に寄せるように置いてある立派な執務机の上に、あったー!!
「いただきますぅっ!!!」
「ど、どうぞ」
素敵! 軽食じゃない、本気の食事だ!
お肉にパンにスープにサラダー!!
美味しい! 美味しいです!!
泣き出さんばかりに、感激しながら食べるわたしを、オルティスさんはにこにこしながら見ている。
さほど時間を掛けず、完・食。
「ご馳走様でしたぁ~」
久しぶりに満腹です。
「いい食べっぷりだな、女でそんな風に豪快に食べる人間初めて見た」
「あぁ、まぁ、居ないでしょうねぇ」
貴方みたいな色男の前でがつがつ食べられるのは、食に飢えていたわたしみたいな人間ぐらいなものだろう。
「お前、本当に女か?」
「えぇ!? 男に見えるんですか、わたし!?」
確かに胸とか、胸とか、胸とか、足りないかもしれないですけど、皆無じゃないのに!?
がっかりしつつ、自分の胸を見下ろし、アンダーバストの下の服を押さえて胸を強調させてみる。
腰もぎゅっぎゅと絞って、くびれを強調してみる。
「あぁ、まぁ、女だな。 それに、賊でもないようだ」
「ゾク?」
「…ある程度の規模の貴族の家なら、いつだってその危険はあるだろう?」
そういうものなのかな?
首を傾げると、オルティスさんが、そういうもんなんだ、と話を終わらせた。
「ご飯ありがとうございました、これで数日は我慢できると思います」
「……台所を漁るんじゃなくて、俺のところへ来い。 何かしら置いておくから」
「本当ですか! 本当にいいんですね!! 嬉しいです! ありがとうございます!」
両手を握ってぶんぶんと上下に振る。
「じゃぁ、わたし、明日も早いので失礼しますね! ご馳走様でした! お休みなさい!」
「あぁ、じゃぁな」
やや呆気にとられているオルティスさんに見送られて、廊下に出た。
見回りさんに見つからないようにしながら、部屋に戻り、久しぶりにぐっすりと眠りました。