29.5話 ディーの妄想
※ 小話的な何かです。
「明日から、メイドになれ」
デュシュレイの言葉に、一瞬ぽかんとしたリオウだったが、素直に頷いた。
「えぇ!? そんなあっさり!?」
「どうしたんですか、ジェイさん?」
「メイドだぞ? 女装だぞ!?」
「女装?」
首をひねるリオウ。
「ジェイ、気にするな。 ロットバルド隊長に了解した旨を伝えて来い」
リオウとジェイの会話が繋がらないうちに、デュシュレイは話を切ってジェイを部屋から追い出した。
「あぁ! ジェイさん未だにわたしの性別に気づいてないんですね」
「…そうだな。 お前も、気づかれないように注意しろと、いつも言っているだろう」
毎日、喋りすぎだの、なんだのと小言を言っているのに、リオウは一向に気にした様子が無い。
これはもう、リオウが女だとばれるのも時間の問題じゃないのかと思っているデュシュレイだったが、それならそれで、良いかなと思っているなどとは知らないリオウだ。
「で、メイドって、お家でメイドしてればいいんですか? お城のメイド係じゃないですよね?」
「家でも城でもない。 明日、ロットバルド隊長の従者が仕事先に案内してくれる。 先方では余計なことは言わずに、しっかり仕事をしてこい」
疲れたようにイスに深く腰掛けるデュシュレイに、リオウは冷たいお絞りを渡す。
「了解しました。 で、この(従者の)格好で行っちゃまずいですよね。 服どうしましょう」
こっちに来てから、3着程服を買ったが、どれも従者服。
メイドとして行くのであれば、女ものの服が必要だろう。
「ああ、そうだな」
デュシュレイはそういうと、冷たいお絞りで顔を拭き、シャツを取り替えるとリオウを伴って家へと馬を走らせた。
「日が高いうちに家に帰るなんて初めてですね!」
「…そうだな」
哀れな台詞を嬉しそうに言ったリオウに、これからは、もう少し早めに帰ろうと思ったデュシュレイだった。
デュシュレイはリオウを連れて、いつもは使っていない部屋のひとつに入っていった。
リオウはこもった空気を逃がすべく、すぐさま部屋の窓を開ける。
部屋に作り付けのクローゼットを開けると、そこには落ち着いた色合いの女性物の服が数着掛けられていた。
「これ、どうしたんですか?」
大掃除をした時には無かったものに、リオウは首を傾げる。
「気に入るのはあるか」
聞かれて、素直に服を物色する。
落ち着いた青いワンピース、濃い緑のノースリーブのワンピース…ワインレッドのロングドレス……。
取り出したのは、青いワンピース。
「(無難なのは)これでしょうか。 ところで、これ、どうしたんですか?」
部屋にあった鏡の前に立たされ、服を当てられる。
「ああ、いいな。 揃いで下着と靴も用意してある、着てみろ」
「は? え?」
有無を言わさず、一式つめられている箱を押し付けると、デュシュレイは部屋を出た。
「き、着ればいいんだよね…?」
早くしろ、とドアの向うから声がかかって、慌てて服を脱ぎ、渡された下着をつけ、服を着る。
小さくドアを開けたリオウが、ひょこっと顔を出す。
「あの、着ました、けど。 これでいいですか?」
ドアを大きく開けて入ってきたデュシュレイに、落ち着か無げにスカートの裾をいじるリオウ。
「………」
「私服でスカートって履いたことが無くて…。 変、ですか?」
上目遣いで見上げてくるリオウに、デュシュレイは無言で周囲を一周する。
下着のサイズも、服のサイズも申し分無く、さらりとしたその生地が、リオウのほっそりとした体形を包み込む。
ささやかな胸の膨らみも、細い腰も…。
「似合っている……」
「そうですか! よかった! ところで、これってわたしが着ていいんですか?」
ぱっと笑って言ったリオウの言葉にデュシュレイが首をひねる。
「リオウ以外誰が着る?」
「? これって、誰の服ですか?」
「…リオウの服だ」
「わたしの?」
確かにサイズもぴったりだったがと、思いながらも首を傾げるリオウを、デュシュレイが捕らえる。
「私が用意した。 いつか、リオウに着せたくて」
「…そ、そうなんですか?」
なにやら嫌な予感がして、一歩引くリオウのウエストを捕らえたデュシュレイが、軽々と抱き上げる。
「男が女に服を贈る意味を知っているか?」
抱き上げたまま歩き出したデュシュレイに、落ちないようにとリオウがしがみつく。
「お、おくる、イミですか?」
リオウを腕に抱えたまま、片手でベッドカバーを剥ぐ。
リオウがいつも整えていてくれるベッドに、きょとんとしたままのリオウを下ろす。
「男が女に服を贈るのは…。 その服を脱がせたいから、だ」
「え、ディ、ディー…っ!?」
両手を頭上で拘束されたリオウの戸惑う視線と視線を合わせたまま、デュシュレイはその唇を奪う。
初めてその唇を奪ったときと変わらず、少女の唇は仄かに甘い、そして、あのときと変わらずその可愛らしい舌はデュシュレイのそれに応えることを知らない。
ねっとりと口腔に差し入れられた舌に、上あごを舐められて、顎をのけぞらせる。
「…お前にこの服を着せて……脱がせたいと」
「ディ…ディー! わたしはっ」
顔を真っ赤にした、リオウが何とか逃れようともがけばもがくほどスカートが捲くりあがる。
赤くなる首筋を、デュシュレイの唇が辿る。
ほっそりとした肢体をデュシュレイの大きな手のひらが撫でる。
「やっ…ディー…っ」
「リオウ……嫌か?」
手の拘束を放し、じっとリオウの瞳を見つめるデュシュレイの目に、リオウは赤くなった頬のまま顔を背ける。
デュシュレイは蕩けるような笑みを浮かべ、その愛らしい頬に唇を寄せる。
「リオウ、それは了解と受け取るぞ」
「あ、あっ、ディ…でゅしゅれ…」
舌ったらずな声で、名前を呼ばれ、いとしさが募る。
なぜだかデュシュレイの名前だけ舌ったらずな発音になってしまう少女に、彼女だけに許した呼び名も好きだが、こうして、舌ったらずに呼ばれるのは下半身を煽られる。
「リオウ…」
デュシュレイも我知らず熱く囁いて、リオウの素肌に唇を寄せる。
ワンピースも下着も、贈った者によって剥ぎ取られ、ベッドの下に落とされている。
整えられたベッドも乱れ、部屋は淫靡な空気に満たされる。
「あ、ディー…っ。 や、優しく…して」
恥じらい、横を向いて囁くリオウに、デュシュレイの理性の砦が崩壊した。
「……っつ、なんて…夢だ……」
イスを2つ繋げて仮眠を取っていたデュシュレイは、あまりにも欲望に忠実な夢に、熱い息を吐き出した。
ロットバルドの要請により、リオウをあの館へメイドとして送り込んでからというもの、デュシュレイはリオウが来る前と同じように城に泊り込んで仕事をこなしていた。
疲れがたまっている自覚はあるが、リオウが抜けた穴は大きく、とても家に帰る時間を取れない…リオウが居ない家に帰る気にもなれないという理由もある。
デュシュレイはため息を吐くと、給湯室へと足を向けた。
日中のお茶はアルフォードが入れていてくれたが、夜はロットバルドと共に屋敷へ帰っているので、飲みたければ自分で用意するしかない。
「全く、あいつはこんなところに、こんなものを…」
数日前に見つけたときにも呆れた、その冷凍箱を開き、中から冷凍果物を取り出す。
一口大に切られ、金属性のトレーに乗せられたそれを、ひとつ取って口に放り込む。
冷たさが口のみならず、全身をクールダウンするようだ。
「リオウ…早く、かえって来い」
そっと冷凍箱を閉じた。
妄想(?)暴走中のデュシュレイ隊長でした。