29話 お久しぶりですジェイさん
どうやって弁解しようか。
やはり平謝りがいいか…、あの子がお姫様なんて知らなかったんですと、しらばっくれるか。
空のポットを持って部屋に戻る道すがら、ぐるぐると考える。
なんだか、どの手段を取っても怒られることは回避できない気がしてきた。
それならば、迂闊に引き伸ばさずに、すべて甘んじて受け入れよう…。
それが一番いいかもしれない。
消極的結論に、ため息をつきつつ仕事部屋のドアをあける。
「ただいま戻りました」
バル隊長も今日は外仕事だから、誰も居ない予定の部屋に、一応声をかけたら。
「よぉ! 久しぶり」
空き机に座っていたのは、超久しぶりなジェイさんだった。
「お久しぶりです! お元気でしたか!」
懐かしい顔に小走りで近づくと、ジェイさんはしげしげとわたしを眺める。
「いやぁ、ホントに従者やってんだなぁ…」
含みのあるその台詞に、頬が引きつる。
忘れてたけど、一応わたし、敵の(服を着ていた)魔術師なわけで!
暢気に敵国で従者でパシリとか、ハウスキーパー的なこととか、果ては書類の数字のチェックとかしちゃってていいんでしょうか!?
書類なんてのは、ひとつの部隊のものだとはいえ、敵国に見られていいもんじゃないでしょう!?
「わたし! なんで、従者やってるんでしょう!?」
素でびっくりして、ジェイさんに聞き返す。
「そうですよね! こんなに入り込んだことしちゃだめですよ!! ジェイさんからディーに言ってください! 目を覚ましてくださいって!!」
「……い、いや、ちょっと待て。 なにを今更…」
引き気味のジェイさんだが、今更って、おかしいでしょうよ!
「今更じゃなくてですね、ちゃんと気づいたときに正しておかないと、後が大変なんですよ! 書類だってそうです! 初期の段階でミスして、チェックもせずにそのまま書類作成しちゃうから、最後の数字まで全部訂正しなきゃなんないんですよ、こんちくしょー!! 確かめぐらいしやがれっっ」
日々の鬱屈が出てしまいましたが、言ってることは間違ってません。
「書類については、そうだと思うが。 何をわめいているんだお前は」
ディーの声と共に、軽く拳骨をくらいました。
何も悪いことしてないですわたし!
むっとして、振り返ると、汗だくのままのディーが仁王立ちしていた。
い、威圧的な態度されても引きませんよ!
「いま、大事なことを思い出したと…ふがっ」
「お疲れさんです、デュシュレイ隊長!」
背後から口を塞がれて、耳元で、そのことは言うな、と素早く耳打ちされた。
なんでですか! 大事なことですよ!
と思いながらも、口と鼻を同時に塞がれて、頷く以外の返事だと窒息してしまいそうなので、小さく頷くと、口を解放された。
「…六番隊は、あの件で集まってるんじゃなかったのか」
明らかに不機嫌なディーの声が怖いです。
「リオウ、ポットを片付けてこい」
「はい」
ゆっくり片付けてきますとも!!
魔法を使わずにポットを洗ったり、最近こっそり伍番隊用の棚の中に作りつけた、密閉率の高い箱
(クリップを作るときにお世話になった職人さんにこっそりお願いしてこの棚に合う箱を作ってもらいました、外側が木箱で、中を鉄板で作り、箱の蓋に蝶番をつけて取っ手をつけてソレらしくしてもらいました、只の木箱とは一味も二味も違います! 職人さん最高!!)
に、冷凍庫の魔法を掛けてこっそり氷(製氷皿も職人さんに作ってもらいました)を作ってます、もちろん冷凍果物も常備しており、こうして、こっそり仕事の合間に食べてます。
冷蔵箱のように堂々と外において共有していないのは、色々面倒くさそうという理由だけです。
独断でこっそり作ってしまったので、未だにディーにも内緒です。
まぁわたし以外この棚を開けることはないから、当分はばれないでしょうし!
(職人さんへの報酬は、クリップの販売の利益があるからいいと断られました。 ありがたく甘えさせていただきました)
二つ目の冷凍果物を食べようとしたとき、向うからディーに呼ばれてしまったので、冷凍箱に戻して仕事部屋に戻りました。
また、面倒くさいことが舞い込んだとも知らずに……。