3話 実践
「持っているものを全部そこへ置け」
山賊です。
とりあえず、荷物を足元に置いて、ホールドアップ。
「ふん、わかってるじゃねぇか、小僧」
いえ、小娘ですが。
明らかに下っ端な男が来て、荷物を持っていく。
どうしようか、あれとられたら、委員長に怒られそうな気がする。
かといって、取り返せそうにないし。
それにしても、あれですね、この世界の山賊ってずいぶん身なりがいいんですね。
山賊って、もっとボロをまとって、腰には獣の毛皮なんか巻いて、粗野でがさつな大男達ってイメージだったんだけど。
なんだろう、全員ずいぶん若いし、どうにも山賊らしくない。
………。
無言で相手を観察する。
リーダー格の男は20才前後? 服装もまとも、腰に剣まで挿してる。
他の5名の男も似たり寄ったりで、大柄な人も2人ばかりいるけど、他の3人は中肉中背、あんまり筋肉質っぽくない。
何より、こいつら、髪の毛とかきれいだし、汗臭くも無い。
何だろう、本とかで読んだのとぜんぜん違う、ってか、むしろこいつら、ガキ共が数人でコンビニを襲うっていう雰囲気すら醸してる。
遊ぶ金ほしさってやつ。
あ、なんか、いらいらしてきた。
だって、只今こいつら、目の前で戦利品を広げて、わいわいしてやがるし?
一応、大柄な2人がこっちを警戒はしてるけど、なに、これ?
「金がまったく無いってどういうことだ!」
袋の中を改めてたリーダーが怒鳴る。
あぁぁ、マジで?
力尽きたいのを堪える。
ホントに遊ぶ金欲しさの犯行っすか…。
こんなのに屈しなきゃならんのですか…。
これはあれですね、委員長、今こそ、魔法を実践せよとの思し召しなのでしょうか。
こいつらを実験台にしてOKと、そういうことだと解釈しますよわたし。
ゆっくりと両手を下ろし、右手は胸に一度触れてから前に突き出し、小指から順に握りこんでゆく、そして全員を視界に入れたところで。
「”うごくな”」
そうつぶやく。
びしり
そんな効果音が聞こえそうな勢いで、6人が動きを止める。
さっき練習したときは、そよそよ揺れる草を停めただけだったから心配だったけど、ちゃんと視界に入れた対象物全部を停めることができてよかった。
魔法がちゃんとかかっていることは理解しつつも、恐る恐る近づいていって袋と散らばっている食料などを回収する。
近くで目が合うと、まぶたの動きも止まってはいるけど、ぎろりと眼球だけでにらまれた。
怖っ!!
大急ぎで離れて、近くの木に巻きついていた蔦をナイフで切って、彼らの両腕を後ろに回して両手首を縛り、両足も縛って道端に転がした。
で、リーダー格の男のそばにしゃがんで。
「次、こんなことしたら、体の自由を奪うんじゃなくて、君達の心臓、止めちゃうよ? わかった?」
リーダーは、脂汗だらだら流して、動かない体で必死にうなづいて見せた。
よしよし、こんだけ脅しておけばもう山賊…いや、むしろ、追いはぎ(格下げ)、なんてしないだろう。
さぁて、とっとと集落を探さねば。