27話 王城にて少女と遭遇
本日も、お城でお仕事です。
で、お城の中で迷子です。
手に持ったアイスティー入りの特製保冷ポットが、どんどん重くなる気がします…。
気のせいでしょうけど。
いつもなら、誰かしらと会うのに…そうして、何とか部屋に戻ることができるのに…。
今日に限って、みんな忙しそうで、声を掛けることができない。
諦めて、庭に面した廊下から庭に降りて、ちょっと奥にあったベンチで休憩することにしよう。
ぐるぐる歩き回ったせいで、のどが渇いたしね。
丁度手に持っていた……嘘です、本当はこれを修練場で訓練中のディーに届けるところだったんだけどね…何回か行ってるにもかかわらず、どうしてもたどり着けないのですよ。
なんだろう、迷子になる呪いでも掛けられているんだろうか…。
遠い目をしながら、カップを出し、レモンの風味の利いたさわやかなアイスティを注ぐ。
氷は入れてないけど、氷入りと同じくらい良く冷えてる。
さすが、冷蔵ポット! 素敵魔法万歳!!
「何を飲んでるの?」
突然ひょこんと目の前に出てきた小動…いえ、小さな娘さんに、危うくアイスティを噴出すところでした。
咽ながら飲み干し、目の前の繁みから出てきた、小奇麗な女の子に新たにアイスティをカップに注いであげる。
「アイスティですよ。 一緒に飲みませんか?」
座っていたお尻をずらして、もう一人座れるように場所を空ける。
少女は一瞬怪訝な顔をしたが、ぱっと微笑むと飛び乗るようにそこに座った。
「ありがとう、いただくわ」
「はい、どうぞ」
カップを渡すと、にっこりと笑うから、ついわたしも笑い返す。
「アイスティって言うの? 初めてだわ」
「レモン風味でさっぱり飲みやすいですよ」
お子様になら、蜂蜜も足してあげたいところだけど、いま持ち合わせがありません。
カップに口をつけ一口飲んだ少女が、目を丸くしてわたしを見上げる。
「凄い!! 凄く冷たいわ!! どうして!?」
「おいしいですか?」
「おいしい!!」
どうして?にはあえて答えず、はぐらかしておく。
少女がカップのアイスティを飲み干して、お代わりをねだるので、もう一杯だけ注いであげた。
流石に少しはディーの分も残してあげないと。
「ありがとう! こんな美味しい飲み物初めてよ。 ねぇ、あなたお名前は?」
カップを受け取って片付ける。
「わたしはリオウと申します。 あなたは?」
「あたくし? あたくしは…リーチェ、よ」
「リーチェ? 可愛らしい名前ですね」
「リオウは変わったお名前ね? 他の国の方? でもその服…従者でしょう?」
リーチェは賢いなぁ。
話し方もハイソな感じだし、何より…王宮に子供って……。
あぁ…嫌な予感がする、あまり深入りしたくない。
「はい、従者をしています。 でも、最近従者になったばかりで。 修練場を探して迷子になってしまいました…」
遠い目をするわたしを、リーチェは可哀想な者を見る表情で見てくる。
仕方ないの、わたしには迷子になる呪いが掛かってるんだから!
「さっ! もうひと探ししてきます! リーチェは、ちゃんと帰れますか?」
気合を入れてベンチから立ち上がる。
「あたくしは大丈夫よ。 それよりリオウ、大丈夫? 主の方に怒られない?」
リーチェが心配してくれるが…ディーが怒る?
ちょっと考えて、にっこり笑う。
「大丈夫です、あんまり怒るようなら明日のお昼の休憩に、ディーの嫌いなブロッコリーのサラダを出して報復しますから!」
「…そ、そう? 頑張ってね」
「はい。 じゃあ、気をつけて戻ってくださいね」
「…うん」
なんだかしょぼんとするリーチェに、後ろ髪を引かれる。
「リーチェ、大丈夫?」
ベンチに座っているリーチェの視線にあわせるように、膝をつく。
「何か嫌なことでもあったんですか?」
何かを我慢するような顔のまま、ふるふると首を横に振る。
うーん?
実は、子供の相手ってあまりしたことがなくて、どうしていいのかわからない。
「えぇとね、リーチェ、ぎゅうする?」
「…ぎゅう?」
「うん、ぎゅう」
荷物をベンチに置いて、首を傾げるリーチェに大きく腕を広げる。
「ぎゅーって」
にっこり笑うと、リーチェはおずおずとベンチを降りて、わたしの首にしがみついてくれたから、わたしもぎゅーっとリーチェを抱きしめる。
ウエーブが掛かったふわふわの髪が頬を撫でてくれる。
「リーチェが元気になりますように」
ぎゅっと抱きしめて囁く。
暫くそうして抱き合って、そっと体を離す。
少しだけ、リーチェの表情が明るくなった気がする…気のせいじゃなければいいな。
「あのね、修練場は王宮の向こう側だから、ぐるっと戻ったほうが早いよ?」
リーチェありがとう…、最初の選択でわたし間違ってたんだね。
手を振って別れ、早歩きで修練場へ向かう。
「……どこをほっつき歩いていた」
ぎゃぁ! ごめんなさい!! だから、その汗だくの格好でわたしに抱きつくのはやめてください!!
あーせーくーさーいぃぃぃ……!!!