23話 住処と食料保存事情
目覚めたら、素敵に筋肉質な胸筋が目の前にありました。
えぇと、腕枕?
隊長?
隊長がパンツ一丁で寝るのは知ってるから、今更驚かないけど。
なにゆえ、一緒のベッドに寝てるんだ?
冷静に首をひねっていると、ゆっくりと隊長の目が開いた。
「あ、おはようございます」
反射的に朝の挨拶をすると、一瞬動きが止まったが、すぐに腕枕を解除して起き上がった。
「…つまらん」
「は?」
ベッドの上に上半身を起こし、立てた膝にひじをつく…という、ナルシーっぽい格好が決まりますね隊長!
「少しは動揺しないのか? ひとつのベッドに、裸の男と一緒に寝ていて」
「……なんで? 裸なんて(家族で)見慣れてるし! 平気ですよ?」
と、笑い飛ばしたら、隊長の凍てつく視線を浴びる羽目になりました。
「リオウには…裸を見せ合うような間柄の男がいるのか?」
な、な、なんで、ベッドに押し倒されなきゃなんないんでしょう!?
両手は顔の横でそれぞれ押さえられて、身動きが取れませんよ!
「裸を見せ合うような…って、わたしが見せることはないですよ(家族とはいえ)! ただ、風呂上りとか、パンツ一丁で部屋ん中うろついてるから、目に入るだけです!」
「……男と一緒に住んでいるのか」
うわぁ! うわぁぁぁ!! なんかわかんないけど、更に機嫌が悪くなった!! ひぃぃぃ!!
「だって! ちゃんと服着てって言っても、着てくれないんだもん! ウチのお父さんも弟もっ!!」
「……父、と、弟…?」
ぽかんとした隊長に、必死で頷く。
「聞くが、リオウには今現在、恋人は居るのか?」
な、なんでそれが知りたいのかはわかりませんが?
「過去も現在も、残念ながら恋人など居たためしはありません」
隊長はたくさん居そうですよね!
時々無駄に色気があったり、すぐキス(魔法対策?)してきたり、スキンシップ過多だったり。
「…そうか」
なんですか、その微妙に嬉しそうな顔!
もてないのを哂うんですか!? ほんっとに失礼なヒトですよね!!
なんだか機嫌が回復した隊長は、わたしの上から退いてベッドを降りた。
むぅ…何が何やらわからないけど、わたしも着替えねば。
ベッドを降りて、足がスースーする。
ふと見ると、いつも履いたまま寝ているズボンが無くて、シャツ1枚を着ている状態で!!
「…っ!! うひゃぁあっ!!」
「どうし…っつ!!」
「こっち、見ないでくださいっ!!」
一生懸命シャツの裾を引っ張って後ろを向いたけど、かえって後ろが持ち上がっちゃったから、きっとパンツ見られた…っ!!!
「もうっ! なんでズボン履いてないのっ!?」
きっと、暑いからって、寝てるうちに脱いじゃったんだろうけど!
もう、本当に、こんなときにそんな寝相発揮しなくてもいいじゃない! 自分の馬鹿っ。
慌ててベッド脇に落ちていたズボンを履き、ベストを着て腰布を適当に巻く。
後ろでぎくりと顔を強張らせた隊長を見ることが無かったのは…幸か不幸か……。
で、ここは隊長の自宅。
隊長クラスになると、国から戸建ての家が支給されるんだって。
隊長は独身だから、4LDKでこぢんまりとしたお家。
久しぶりに帰ったということで、家中もっさりと埃くさい。
そういえば、ベッドも埃っぽかった…。
家には食料品が全くなかったので、朝ご飯は町へ出て食べた。
どうも、隊長には家で食事を摂る習慣が無いらしい・・・。
うちの母が知ったら、黙って1時間は正座で説教だよね。
…怖い怖い!!
とりあえず、わたしが従者をしている間は、わたしがなんとかしなきゃ!
毎食外食だなんて! あとでばれたら、3時間説教コース確定!
異世界だろうが関係なく怒られるー!!
だから、隊長にお家の事をやらせてもらえるように直訴。
せめて、食事は自炊させてください、わたしの未来の為に!!
と、心を込めてお願いしたら、すんなり受理された。
ありがとうございます!
「ディー! あれ、何ですか? 果物? そのまま食べれるの? 冷凍して食べたらおいしそう…、あれも買っちゃダメ?」
朝ごはんから帰りがてら、食材の調達です。
調理されてるものは、たくさん見てきたけど、生ものは見たこと無かった…まぁ、そうは違わない感じだからどうとでもなりそう。
「ディー! あれは? 野菜も買わないと! 好き嫌いは駄目だよ? ねっ?」
野菜を買おうとして、渋られて、メッと睨んでおく。
肉ばっかり食べてたら便秘になるよ!!(主にわたしが)
隊長の両手は食材で塞がり、わたしの手にも…えぇと、果物だけだけど、ちゃんと持ってるよ。
「沢山買ったね! 冷蔵庫、冷蔵庫!」
「れいぞうこ?」
え?
家に戻って、びっくり。
冷蔵庫無いんだって!!
食卓に置いた、この大量の食材…。
「…ディー。 つかぬ事をお伺いしますが…、食材を低温で保存するようなものって、無いものなのでしょうか?」
「無いな。 食いモンは、基本的に、その日使う分を買ってくるものだ」
orz
「な! 何で早く言ってくれないんですか!! こんなに買っちゃったじゃないですか!」
「…常識だろう?」
あぁぁぁぁっ!!!!
orz
「わたしが非常識だって、知ってるじゃないですかぁぁ!!!」
「…それもそうだな」
「だから、お店のヒトが変な顔してたの!? こんなに大量に買い込んでるから!?」
「…まぁ、それもあるだろうな」
「いやぁぁ! 恥ずかしいっ! 今日買い物に行ったところに、もう行けないじゃないですかぁ~」
「…そうか?」
そうか? じゃない!
もうっ! もうっ!! 隊長なんてあてにならないっ!!!
「いいモン…。 冷蔵庫ぐらい何とかするし! ディー、使ってない箪笥とかってありますか?」
箪笥は無かったけど、大き目の木の箱が2つ有ったのでそれを台所の端に置く。
右側の箱に、操駆した手を突っ込む。
「”冷蔵・効果継続”」
冷蔵庫程度の温度に箱内の温度が下がったので、そこに野菜と果物を入れる。
そして、もうひとつの箱に、操駆した手を突っ込んで。
「”冷凍・効果継続”」
ひょー! いい感じに冷えてきた!
さっき、冷蔵庫に入れた果物を2つばかりすぐに食べられるように、愛用の折れたナイフで皮を剥いて一口大に切って、皿にのせて冷凍庫の中に入れておく。
今晩はシャーベットが楽しめるゾ!!
わくわくしながら箱のふたを閉める。
「リオウ、もう時間だ」
「あれ、ディー? 仕事?」
振り返れば、制服に着替えた隊長が居た。
「本来なら、従者もだが…当分は、家の事を頼む」
「えー! わたしもお城に行くの!?」
そんな! なんでわざわざ危険な匂いのする場所に行かなきゃならないの!?
「…当たり前だろう。 リオウは私の従者、なんだからな」
従者じゃなくて、執事になりたい…。
執事さんってお家のことを取り仕切るヒトでしょ?
そっちのほうがいいなぁ、って言ったら。
「この家に執事が必要だと思うのか? まぁ、家の中で働いていたいなら、ふさわしい立場があるが…」
と、隊長が珍しく笑顔だったので、聞くのはやめました。
笑顔は危険ダ!
とわたしの第六感が言ったので。
不満げな隊長を無理やり仕事に送り出して台所に戻る。
それにしても…埃っぽい!
とりあえずこの埃を何とかしよう。
切り分けてから冷凍しておこうと、出しっぱなしだった肉の塊2つを、そのまま冷蔵箱に入れておく。
台所でやるのはちょっとアレなので、居間に移動して操駆する。
「”集塵!”」
家中の塵や埃が集まるように、目を閉じてイメージ。
結果、こんもりした山が目の前にできてました…。
良くこんなに集まったなぁ、びっくり。
でも、これ、庭とかに出すようにしとけばよかった。
階段下の物置に置いてあった、箒とちりとりでえっちらおっちら片付けました。
そんな感じで、魔法を多用して家中をぴっかぴかに磨き上げてやりました