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22話 肉食系陛下と血の盟約

 陛下っていうと、天皇陛下…?

 多分、国のトップってことだよね。


 わたし、なんでこんなところに居るんだろう(涙)



 謁見の間という部屋の、奥の階段の上に威厳に満ちた……偉そうに男のヒトが座っている。

 部屋は仄かに明るい。

 ロウソクも電気も無いのに、ほんのり全体が明るい。

 もしかしたら、魔法なのかなぁ…だって、魔法使いチックなローブを着たヒトが二人部屋の隅に立ってるし。

 ほんのりじゃなくて、普通に明るくすればいいのになぁ。

 まぁ、雰囲気が出てていいのかもしれないけど。


「伍番隊隊長デュシュレイと従者リオウ」

 さっきの嫌なおじさんが、浪々と隊長とわたしの名前を呼ぶ。

 隊長の真似をして、隊長の斜め後ろにひざまずいて床を見る。

 顔を上げちゃだめなんだって。

 だから、名前を呼ばれても下を向いていたら、目の前に誰かきた。

 そして、わたしの前にしゃがみこんだ。

「リオウ? 魔術師なんだって?」

 びっくりして顔を上げると、若い兄ちゃんが居た。

「陛下!」

「もう時間も遅いし、早く済ませたほうがいいだろう」

「しかし、手順というものがございます。 そのようなことでは、臣下に示しがつきません」

 やきもきする閣下に陛下は、つらっとしている。

「お前達のためではない。 余が、とっとと終わらせたいのだ」

 陛下はそういうと、マントの下から豪奢なナイフを取り出し、呆然としているわたしの頬に切りつけた。

 あまりに滑らかなその一連の動作に、身動きひとつできず、目を見開くわたしの顎を掴むと。

 頬から流れ出る傷に、陛下が口をつけた。


 熱い舌が、何度も傷の上をすべり、傷をこじ開けるように舌で強くつつく。

「いっ!!」

 気持ち悪い! 痛い! 止めろ馬鹿ー!!

 の台詞を、無理やり飲み込めた自分に乾杯!

 目を閉じて懸命に耐える。


「そそられるなぁ」

 やっと口を離した陛下が、口の周りについた血を舌で舐め取りながらにやりと笑った。


 ひぃぃぃ!!


 肉食の獣とダブりましたよ!

 怖いよ、怖いよこのヒト!!

 外見は優男やさおとこなのに! まだ若いのに! 全然マッチョとかじゃなくて、細身で…ひ弱そうではないけど、肉体派じゃなさそうなのに! なんだこの凶暴な気配!


 大慌てで隊長のところまで這っていき、隊長の影に隠れて震えながら陛下を見る。


 あのヒト怖い、あのヒト怖い。



 隊長の服を強く掴んでいた手がそっと撫でられ、顔を上げれば隊長と目があう。

 隊長の凪いだ目を見ると、震えが納まった。


 突然陛下が笑い出した。

「はっは! その小鹿はよっぽどお前に懐いていると見える! もうよい、行って傷の手当てをしてやるがいい」

「陛下! まだこの者の魔法を見てはおりません! リオウ! 何か魔法を!!」

 閣下が慌てると、陛下はぎろりと閣下を睨んだ。

「余が構わんと言ったのだ! もう、血の盟約は取ったのだ。 この者は魔術師としてではなく、従者として生きることを決めていると聞いた。 それに、このようなひ弱き者の魔法など、どうせ取るに足らないものだろう、そのために、あの長たらしい操駆を見ねばならぬのは苦痛だ! もうよい! デュシュレイ、小鹿を連れて帰れ!」

「承知いたしました、御前失礼します」

 隊長がそう返事をし、わたしを伴って部屋を出た。

 そして、逃げるようにその部屋から遠ざかり、誰も追ってはこないのを確かめると歩調を緩めた。




 切られた頬が、じわじわと痛む。

 ハンカチを持ってないので手で押さえて、先を行く隊長の後を追う。

 うぅ、舐められたの、気持ち悪いよぅ。

 首を切られなかっただけマシだったのかなぁ…、本当はわたし捕虜だし。

 手のひらが血でぬめぬめする。

「痛いか?」

 隊長が振り返り、わたしが頬の傷を押さえているのを見て、慌ててよってきた。

 すこしかがんで、頬から手を退かす。

「まだ血が出ているな」

 どこからかハンカチを出すと、傷の上に当てて、その上から押さえて置くように言われた。

「ありがとうございます」

 素直にお礼を言うと、突然ふわりと体が持ち上げられた。

 隊長の顔がすぐ傍にあって、子供みたいに抱っこされていることに気づいた。

「あ、あの! わたし、重たいし! あ、今、軽く…っ」

 ”重力二分の一”の魔法を使って少しでも軽くしようと、操駆の為に胸に当てた手を、隊長に掴んで止められる。

「リオウは私の”従者”だ。 誰の目があるかわからん、ソレは使うな」

 従者は魔法を使わないもんね…、さっき、陛下も、従者として生きるから云々って言ってたし。

「でも、重くない?」

 安定を得るために、隊長にしがみつく。

 隊長はさっきよりも早いぐらいの歩調で、苦も無く歩いている。

「重くなどない。 いつもアレだけ食べていて、この程度の体重とは…まったく、規格外な奴だ」

 確かにこっちに来てから食べる量が増えた気がするけど!

 ご飯がおいしいんだもん、仕方ないよね……。


 隊長に抱っこされて運ばれて、睡魔と闘ったけど…。

 あの上下運動のゆりかご効果? の前に敢え無く撃沈してしまいました。

 隊長、運んでくれてありがとう。








 いつの間にか眠ってしまったリオウを、デュシュレイは自室のベッドにそっと横たえた。

 ベッド脇のランプに火を灯し、リオウの頬に張り付いたハンカチを注意深くはがす。

 血のにじむその頬が目に入り、デュシュレイの眉間に皺が寄る。

「まさか、あんな暴挙に出るとは……すまなかったな、リオウ」

 指先で柔らかな頬を撫で、先ほど王がその頬をやや暫くの間舐めていたのを思い出し、デュシュレイから表情が消えた。


「リオウ……消毒だ」

 言い訳するように呟くと、リオウの頬の傷に唇を寄せた。


 傷口を舐められ、引きつるような痛みに、眠りながらも弱弱しい抵抗を見せたリオウの両手を優しく押さえつけ、何度も何度も丹念に頬を舐める。

 やがて頬を舐めていた舌は、薄く開いて寝息をたてていた唇をかすめると、何度もそこを唇で啄ばむ。


 起こさないように、注意深く…。


 唇はリオウの小さな耳たぶをみ、細い首筋を辿る。

「リオウ…寝苦しくはないか?」

 耳の浅いところに舌を差し込み、小さく囁く。


 リオウの腰帯をく。


 この小さな従者は、未だにこの帯を締めることが下手だ。

 毎日デュシュレイが自らこの細い腰に帯を締めている。

 帯を解くとベストを脱がせ、ズボンの紐も解きズボンも抜き去る。

 白い足が力なくベッドに投げ出される。

 上半身を覆う無粋なお仕着せのシャツの裾から、リオウの故郷のものだというぴったりとそこを隠すように作られた下着がちらりと見える。


 リオウの裸はもう何度か(偶然を装って)見ていたデュシュレイだったが、そのちらりと見える淡い色合いの下着に、何か胸を締め付けられる心地がするのだった。


「リオウ、いつまでも傍に居てくれ」

 日中は決して言葉にならない台詞が、リオウの肌を這う唇から囁かれる。 






「リオウ…愛している」

 唇に落とされた熱い囁きは、聞く者が無いまま闇にとけていった。

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