21話 王城にて
「どこへ行くんですか?」
お城の薄暗い廊下を、隊長の後を小走りでついてゆく。
ジェイさんとは、食堂でご飯を食べた後、すぐに分かれた。
王都の寮に住んでるから、部屋に帰るんだって。
わたしはどうすればいいんだろうなぁ、きっと隊長もお家に帰っちゃうから……。
はっ! 大事なこと忘れてた!!
わたし、捕虜だった!!!
わたしの行き先ったら、牢屋しか無いじゃなーい。
orz
い、いや、まて、確かに、わたしは捕虜だけれども!
頑張って隊長の従者やってるよ?
洗濯も褒められて(ディーさんに)、宿も取れるようになったし、秘技”エアコン”および”虫除け”で夜も快適に寝れるように配慮して(自分の為)、性懲りも無く来る敵は出会い頭に”睡眠”か”うごくな”で戦闘不能にして道端に転がす。
凄くない? 頑張ってるよね! 従者として!!
なのに! なのに!! 牢屋行きって酷くはないでしょうか!!!
「何をやっている」
廊下の片隅で打ちひしがれていたわたしに、隊長の冷たい声が落ちてくる。
「わたし、これから牢屋に行くんでしょうか」
「…? 何を言っている?」
思わず、隊長の服を握り締めて、なみだ目で隊長を見上げる。
「だって、わたし、捕虜…なんでしょう? 捕虜って、牢屋に行くんだよね?」
「っ……!」
なぜか隊長は目を片手で覆い、ぐらりとふらついた。
それも一瞬で立ち直ったけど…立ちくらみ?
「ディー? 大丈夫ですか?」
「…大丈夫だ……。 それより、心配するな。 お前を牢などにはやらない」
ぎゅうと抱きしめられる。
「…本当?」
抱きしめられた腕の中から隊長を見上げると、逆光の中、隊長が頷いてくれた。
「リオウは私の従者だ…。 そうだろう?」
その言葉にうんうんと頷いて、隊長にしっかと抱きついた。
よかった! よかったよー!!
もう絶対、隊長についていくんだから!
隊長結構冷たいし、キツイし、意地悪だけど! わたしのこと牢屋に入れないし、従者として衣食住も保証してくれるし!!
「うん。 あのね、わたし(従者として)ずっとディーについていく…良い?」
確認の為に見上げると、きつく抱きしめられた。
「ああ、ずっとだ」
やった! これでわたしの衣食住は安泰だわ!
「ごほん」
という、こんなわざとらしい咳払い初めて聞いた!!
びっくりして声のした方を見ると、隊長の後方に誰か居た。
「…無粋ですね、閣下」
かっか…閣下というと、また、偉い人を表す敬称ですね。
ゆっくりと振り向いた隊長の陰に隠れる。
ハグしてたの他人に見られるのなんて、恥ずかしい!!
たとえ、嬉しかったからといっても、乙女としていけないよね。
なんだか、こっちにきてから、スキンシップが多くなっちゃったなぁ、気をつけないと、向こうに戻ったときに引かれちゃうな。
「それが、言っていた”従者”か」
「…はい」
近づいてきたおじさんに見えるように、隊長がわたしの前からそっと体をずらす。
隠してよ…。
まぁ、従者として紹介されてるならいいか。
「リオウと申します」
なんとなく”よろしくお願いします”とは言いたくなかった。
だって、なんだかこの人、嫌な目をしてるんだもん。
近づきたくない。
そんなわたしの気持ちはお構いなしに、おじさん…閣下がさらに近づいてくる。
そして、わたしの顎を力任せに持ち上げ、ぐいぐいと右へ左へ振る。
「まだ、子供ではないか。 まぁいい、早く陛下のもとへ」
ぺいっと顎を離し、踵を返して歩き出す。
何あのヒト!!
今まであった中で最高に、最低な態度!!
わたしが内心怒り狂ってるのを知ってか知らずか、隊長は、わたしの気を落ち着けるように何度か背中を撫でてから、歩くように促した。