2話 魔法の使い方
多分、現在、早朝。
空気がひんやりしていて、道脇の草には朝露が光っている。
緑は、いままで目にしたことの無いほど、生き生きと茂っている。
「どこ、ここ?」
ポツリと零すが、それに答える声は無い。
「委員長?」
うん、多分委員長が仕掛け人。
「はぁぁぁぁ……」
軽くめまいがするが、深呼吸してやり過ごす。
多分だけど、委員長が仕掛け人だとしたら、きっと委員長が迎えにきてくれるだろう。
手の中の袋に視線を落とす。
迎えに来るつもりとか無いなら、こんな生きるために必要なモン渡さないだろう…多分。
中を開くと、非文明的な、皮袋の水筒(獣のどこの部位を使ってるかは、追求しないほうが良いと思う)が2つで1リットルくらい、あと、麻の紐で束ねられてるビーフジャーキー……他乾物数種類。
なんだかごつごつしてる布1枚、と、ナイフ…。
ナイフ…ごつくて、実用主義な形状を見るに、これをリアルに活用せよと言われてる気がする。
そして、本が1冊。
「『誰にでもできる簡易魔法書』へぇ、魔法が使えるんだー」
ぺらぺらと中身をめくってみる。
最初1ページに1この魔法が書かれていて、後半になると見開きで1つの魔法、ということは、1ページ目からやっていって、どんどん難しくなるってことか。
でも、書いてあることはかなり簡単なので。
「えーと、虫除けの魔法? 利き手の手のひらを胸に当て、その後腕を伸ばし手のひらは上に向け、小指から順に指を握りこみ、虫除けスプレー(あるいは防虫剤)で虫がこなくなるのをイメージしながら”虫除け”と唱える。」
読みながらやってみた。
……特に変化はないみたいだ。
まぁ早朝で、まだ虫が動き出す時間じゃないないから、もう少ししたら、ヤブ蚊とか出てきそうだし(なんせここは森の中だ)効果の程もわかるだろう。
「次は…」
こうして、わたしは次々と魔法書に書いてあることを試してみた。
火をつけるのは、小さな火だったら「ライター」を、大きな火だったら「火炎放射器」をイメージして唱えたり。
水を出すのもお茶の子歳々ですよ、霧吹き状のものから消防車の放水、もしかしたらナイアガラの滝みたいなのも行けちゃいそうです。
傷を治すなら「頑張れ白血球」で体内の白血球が頑張っている様子をイメージしてとか…ぶっちゃけ「AED(自動対外式除細動器)」もいける、イメージ力さえあればなんとか!!
そして、これが一番お気に入りなんだけど。
「ナイフを利き手に持ち、一度胸に当てたあと腕を伸ばし、刃に自らの血を与えて自らとの繋がりをつくる。 その後、(此処が超重要!)自分の欲しい刃物の形を想像しそのイメージをナイフに送る」
刃物のイメージといえば…やっぱ日本刀かな。
ぐっと目を細めて、ナイフを見ながら日本刀をイメージする。
「ほぁぁぁぁ!」
右手には見事な日本刀が握られているわけですね。
すごいな!魔法って!!
ただ、この魔法書、実践部分しか書いてなくて、魔法の仕組みなんかは一切書かれてないんだけど、それってどうなの?
まぁ、パソコンとかも作り方知らなくても使えるし…そういうもんなのかな。
日本刀をひゅんひゅん振り回し、近くの草をきってみると、面白いくらいよく切れた。
重さはナイフのままだから、見た目に反してかなり軽い。
戻すときは、手から離せば勝手に元に戻る。
便利といえば便利…いろいろ他のものに応用できそうだし、たとえば、お料理するときには「出刃包丁」とか?
すっかり上りきった太陽を見上げ、いつまでもここで遊んでるわけにもいかないかと思い直す。
「あー、確か、イエ……なんってったっけ、委員長にどっかに行けって言われた気がするんだけど”イ”しか思い出せない…」
魔法書の魔法で遊ぶので夢中になりすぎて、大事なことが頭から抜け落ちた…。
まぁ、いいか。
誰か次に会う人に聞いてみれば。
その次の人が、とても聞けるような人達で無かったのは、わたしの日ごろの行いが悪かったからではない、と、思いたい。