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16話 立場

「あ、ジェイさん! お帰りなさい」

 トレーをカウンターに返しに行くと、カウンターでジェイさんがご飯を食べていました。

「おう」

 あ、わたし(達)が食べたのと違うご飯だー。

 ちゃっかりとジェイさんの隣に座って、お茶のお代わりをもらう(お茶はドリンクフリー)。

 ちらちらとご飯を見ながら、お茶を啜っていると、抑えた笑い声が聞こえた。

「ほら、欠食児、一切れやるよ」

 ジェイさんが、フォークに刺したお肉をこちらに差し出され、一瞬躊躇したものの、その、緑色のソースの掛かったお肉の肉厚さに勝手に口が開く。

 無言で、口に突っ込まれる。


 あぁぁぁ!!! 甘辛いソースが、激ウマー!!


 じっくりじっくり、味わって咀嚼する。

 ほっぺが落ちそうです、最高おいしいのです!

 この世界のご飯ってどうして、こんなにおいしいの!

「幸せそうだなぁ」

 ジェイさんがしみじみ言ったので、力強く頷いておく。



「そういえば、ジェイさん」

 お肉の余韻を噛み締めつつ、小声でお食事中のジェイさんに声を掛ける。

「ふぁに?」

 あ、咀嚼中にすみません。

「従者って、どんなことすればいいんでしょう? 隊長のお世話をすればいいんでしょうけど…」

 こちらの習慣もよくわかんないし、誰かのお世話なんてしたことないし。

 ジェイさんはちょっと驚いたような視線をよこしてから、ちょっと考えて口を開いた。

「まぁ、便宜上だし、坊主のできることをやっときゃいいよ」

 ……そうですね、便宜上ですもんね。

 本当は、只の捕虜ですもんね…。

「なんだぁ? 不満そうだなぁ」

「…いいぇ、そんなこと無いです」

 でも、表情が曇るのは仕方がないじゃないですか、”捕虜”だってこと思い出したら、誰だって良い気分しないですよ。

 ジェイさんは苦笑して、ひょいっとわたしの片手を掴み、その手のひらを上に向ける。

「お前、貴族か何かの子供なんだろ? こんな綺麗な手ぇして」

 ぎゅっぎゅと、ごつい親指で手のひらを擦られる。

 それだけで、赤くなる手のひらが恥ずかしい。

「……貴族じゃ、ないです」

「ふーん? でも、仕事してる手じゃねぇよ。 マメも無ぇ、アカギレも無ぇ、綺麗な手だ。 周りのモンがなんもかんもやってくれるからこんな手をしていられるんだぜ?」

 ぽいっと手を離して、食事に戻る。




 なんだか、見捨てられたような気分になって、うつむく。



 でも、本当に、貴族なんかじゃないんだよ。

 只の高校生なんだよ。

 兼業主婦な母さんが忙しいときは料理の手伝いとかするけど…掃除だって基本、掃除機をがーがー掛けるくらいだし、洗濯だって突っ込んでボタンを押せば乾燥までやってくれる。

 マメやアカギレなんてできる要因なんて無いし。

 でもそんな言い訳を、言えるはずもなくて……。


 すっかり冷めたほうじ茶を飲み干す。

「しけた顔してんなよ、また明日も急ぐからよ。 しっかり寝ておけよ」

「…はい……」




「それでもよ、お前が頑張ってるのは評価してんだぜ?」

 席を立って部屋に戻りかけたわたしに、ぽつりと言う。

 振り返ったわたしにジェイさんの真剣な目がぶつかる。

「無茶な行軍なのに、泣き言ひとつ言わねぇだろ。 ほら、早く寝ろ」

 にやっと笑ったジェイさんに顎をしゃくられて、泣き笑いな顔でひとつ頭を下げて部屋に戻る。




 明日も、頑張ろうと思った。




ごめんつぁぁぁ……<(_ _)>(気になる方は:感想4/7参照)

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