13話 トイレが近いわけでは・・・
今日もひたすら馬を走らせる。
馬がへばる前にちょっと休憩を取って、また走る。
で、休憩の度にトイレに行くフリをして、こっそりとエアサロをする。
いやいや、流石にもうそろそろ怪しまれるだろうなぁ…。
5度目の休憩トイレで藪の中に分け入りながら、小さくため息を吐く。
ズボンを下ろして、手を胸に、その手を握りこんで…えぇと、操駆ね。
「”エアーサロンパス”」
唱えてむき出しの足を撫でる。
ズボンを上げて、ベストの上から締めている帯の間にむりやりズボンを突っ込む。
いや、この帯、わたし結べないのよ。
一回や二回、縛り方を見せてもらっただけじゃ…無理。
「あ、そうそう、これもやんなきゃ」
もう一度操駆して。
「”虫除けー”」
全身を手のひらで撫でる。
これが良く効くのよ! こんな藪に踏み入っても、虫さされひとつしないんだから!!
おっと! もうそろそろ休憩が終わるころかな。
「全く、お前、ホントにしょんべん近いな!」
呆れた口調でジェイさんに言われ、小さくなってしまう。
「すみません」
やっぱり、もうそろそろ毎回は怪しまれるか。
「…崩れている」
「はい?」
隊長は有無を言わさずわたしのベストの帯を解くと、またきっちりと巻きなおして、縛ってくれた。
「ありがとうございます」
「…構わん」
馬に荷物を載せなおしていたジェイさんが、笑う。
「隊長って案外面倒見良かったんで―…あ、すみません」
言った途端に謝るジェイさん…変なの。
「こっちに乗れ」
ジェイさんの馬に乗ろうとすると、隊長が馬上から声を掛けてくる。
「え?」
「あぁ、流石にずっと二人乗りだと、こっちの馬がばてるのが早くなるからな」
「こっちに来い」
わたしが居ない間にそういう話になったのかな?
まぁいいや、小走りで隊長の馬に近づくと、後ろからジェイさんが持ち上げてくれて、尚且つ隊長が引っ張り上げてくれる。
「ありがとうございます」
「ほい、荷物」
ジェイさんが最初隊長がしたのと同じように、わたしと隊長の間にわたしの荷物を入れようとすると、それを隊長が取り上げて鞍の前に縛り付ける。
「なんすか、隊長ー? これはもういいんですか?」
「構わん」
……。
「……そうですか」
ジェイさんもわたしも、十分腑に落ちないながらも、これ以上は追求できない。
なんなんだろう? 隊長にだけわかる理由とかあるんだろうか??
馬が走り出したから、ぎゅうと隊長にしがみつく。
…やっぱり、間に荷物が無いほうが掴まりやすいや…。