12話 朝食
「いただきますっ!」
両手を合わせて心から!!
手には大き目のスプーンを握り締め、目の前に置かれた出来立てのお料理に突撃する。
あぁ!おいしいっ!! この鶏肉とナッツの炒め物!! 野菜たっぷりのスープ!! 少し固いパンだけど、うん、軟弱な顎が強くなっていい!! むはー! うまうま!!
「いい、食べっぷりだなぁ……」
ジェイさんの呆れた声に、ご飯から視線をあげると、隊長とジェイさんが呆れた目をしていた。
「す、すみません、昨日、あ、いや、一昨日からまともな食事を取ってなくて」
というか、この世界に来てはじめて食べたまともな食事! だって、こっちに来た当日に歩きながら燻製肉かじっただけだし…それ以降は。
…昨日2人にテントで寝ていたところを叩き起こされたのも、昼過ぎだったし(寝すぎ)、どうやらこっちで食事は1日2回らしくて、移動中に食事を食べようとする気配なんて微塵も無くて…ご飯食べたいなんて訴える余裕もないし、さらに夜は夜でバタンキューだし…、水は飲んでいたとはいえ、よく耐えたなわたしの胃袋。
「おいしい、おいしいです!!」
思い出したら余計におなかが空いてきた!!
泣きそうになりながら、再びスプーンを動かす。
「……隊長…なんだか、俺、こいつが不憫に…」
「…これも飲め」
隊長が飲みかけのスープをこっちに押し寄せてくれる。
それを、涙の引かない目で見る。
無論、感謝の涙だ。
「あ、ありがとうございます!」
飲みかけだろうがなんだろうが、大変嬉しいです。
もらったスープもすっかり平らげて。
「ご馳走様でした」
両手を合わせて頭をさげる。
今日ほどご飯がおいしいと思ったことはありませんよ!
ありがとう! 食材達、そしてこれを作ってくれたコックさん!
「見事な食いっぷりだなぁ、流石成長期の少年!」
「あー…(少年ではないんだけど)恐れ入ります」
確かに成長期ではあるし。
食後の茶を啜りながらのほほんとする。
あーこの、ぬるめのほうじ茶ウマーイ。
ほぅっ、と幸せのため息を吐くと同時に後頭部を、べしっ、と叩かれた。
「のんびりするな、時間が無い、行くぞ」
「は? え? もう?」
目を白黒させている間に、隊長は席を立つ。
「あ、少年、これこれ」
ジェイさんから渡されたものは、地味な服。
「まぁ普通の人間はその服の意味は知らないだろうけど、役人とかにはバレバレだから、こっちに着替えてくれ」
あ、そっか、この服って”敵国の魔術師”の制服なんだっけ?
そりゃ、まずいでしょう!!
大慌てでその服を受け取ると、部屋へ戻って、過去最短の時間で着替えをすませた。
「お、お待たせしましたっ」
地味目な服は、白いシャツと黒っぽいズボンに茶色い皮のベスト。
勝手なイメージで、アルプスなペーター?
使用方法のわからない長い布は手に持って大急ぎで戻る。
「これはベストの上からだ」
隊長は目ざとくその帯を見咎めると、ベストの襟を合わせてから裾を隠すように帯を巻きつけて腰の左側で結び目を作った。
「ありがとうございます」
きれいな結び目だなぁ、ごっつい手なのに器用だ。
「従者っていうことにするから、これをその帯の間に挟んで」
ジェイさんから渡されたのは、わたしのナイフ。
「本来なら、ちゃんと家紋なりなんなりの意匠が施されたものなんだけど、そんなもん用意する暇ないし。 あ、刃は折らせてもらったからな」
ナイフを鞘から抜けば、半分より柄寄りのところでぽっきり折られてる…。
仕方の無いこととはいえ…一言くらいなにかあってもいいじゃないか。
とはいえ、魔法でどうとでもなるから、ま、いっか。
「はーい」
ナイフを鞘に戻して帯に挿す。
そうしてわたしはまた馬に乗る。
今度はジェイさんの後ろに。
「これを持っておけ」
そういって、隊長がジェイさんとわたしの間に、わたしの(委員長からもらった)荷物を押し込む。
一番かさばっていた水筒の水も飲み干してしまったので、そんなに厚みのある荷物じゃないからジェイさんに掴まるのにも支障はないけど。
はっきり言って邪魔だと、ジェイさんも思ったらしく、隊長に質問してる。
「どうしたんですか隊長、荷物なら鞍に…」
「これで良い」
「…そうっすか」
たった一言の中に、何を言っても無駄な空気を感じ取り、ジェイさんが早々にあきらめ、出発することとなった。