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100話 エピローグ:ティス家

「なぜだ……なぜこんな事に………」

 ここ数日で、薄かった頭髪がさらに陰を薄くした父ラティスは、自宅謹慎を申し付けられた当日から酒をかっくらい部屋にこもっている。


 財務局に勤めていた長男イルティスは横領・不正が明るみに出て、家財の80%を没収された。

 それからすぐに、嫁から離縁されて2人居た子供も彼女が連れて行った。


 身内2人の不正により、末姫様の護衛騎士を務めていた次男フォルティスも騎士の職を解かれ、離れた地へと一兵士として左遷させられた。


 俺はまだ学生の身分であったから何の処罰もないが、身内の恥で酷く居心地の悪い立場となっていた。



 父は確かに小悪党の風情ではあるが、そんなに悪いことをしたのだろうか。

 よしんば悪い事を行っていたとして、それを見抜けず父を要職に付け続けていた人間にだって非はあるんじゃないか。

 長男にしたってそうだ、そんな長期に渡る不正を見逃し続けた体制こそ批判されるべきだろう。

 次男にいたっては、単なるとばっちりだ。



 胸に沸く批判の渦は日に日に増していた。

 

 そんなある日、父が拘束された。

 輸出入の貿易額の改竄や敵対国であるイストーラとの裏取引、利益の供与など多くの罪状とともに。


「なぜだ! 外相である私を他国へ引き渡すなど!」

 怒鳴る父へ、伍番隊の隊長である狂犬と呼ばれる男が冷静に返す。

「貴様の身分は既に剥奪されている。 一平民と同じであれば、先方からの申し出をはねつけることはできない」

 逃げようとする父を、屈強な兵が易々と取り押さえ、後ろ手に縄を掛ける。

 喚く父を尻目に、伍番隊隊長は事務的に父を護送用の檻馬車に載せるよう指示する。

 呆然とそれを見ていた俺に気づき、何を思ったのか近づいて来た。


 見上げる位置にある顔に腹立たしく思うが、見下ろしてくる視線の冷ややかさに口は動かない。

「うちのが世話になったな」

 一瞬何を言われたのか判らず眉根を寄せると、伍番隊隊長の口がもう一度開かれた。

「リオウ…いや、リレイが、妻が世話になった」(※この時点で結婚はしておりません、はったりです)

「つ、ま?」

 あれか!? あの食いしん坊か!!

 あれが、この男の妻!?

 何処をどうひねってそうなるんだ、どうにも釣り合いが取れない、あれとこの男のどこに通じるものがあるのかわからない。

 いや、政略結婚か何かだろう、そうに違いない。


 愕然とした俺に、伍番隊の隊長は咳払いをひとつすると。


「あぁ、そうだ、別れの言葉の一つも掛けてやったらどうだ?」

 そう言って檻の方に視線を流され、俺は檻で悄然とする父に気づき檻馬車へ駆け寄った。

 扉はまだ開け放たれたままで、俺はその中に半身を入れて父を見下ろす。

「…オルティス……。 母さんを頼んだぞ」

 いや、母さん数日前に実家に帰ったから。

 とは言えずに、神妙な顔で頷いておく。




 それから数日後、父の訃報が届き、長兄が家督を継いだ。

 まさか、父が殺されるとは思っておらず……俺は心底驚いたが、イストーラに引き渡された時点で死刑が確定していた事を兄から聞いて、そんなことも知らなかった自分が情けなかった。

 知っていたら、もっと他にすべきことがあったんじゃないか。

 教えてくれればよかったじゃないか。

 兄をなじると、甘えるなと一蹴された。

「教えられるのを待ってるだけか、お前は」

 呆れたように嘲笑され、かっとなった俺は家を出た。


 町を出て、国を出て、旅を続けるうちに、ティス家と呼ばれていた我が家の歪みが客観的に見えるようになった。



 俺はもうあの国には戻らない、恥ずかしくて、戻れない。

 






ごめんなすってー!


もう1個100話が通りますよー!

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