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96話 大丈夫だよ

「…いや、お主、保守的に見えて、中々に行動力があるのだな……」


 褒められてないですよね?

 だって、王様痛みを散らすようにこめかみを揉んでますし。

「その様子ならば、まぁ、問題もあるまい。 カディは所用で出ておる、戻るのは遅くなると思うが、今日はこちらに泊まるのか? ならば…部屋を用意させるが」

「あ、いえ、帰りますけど、楓は元気なんですよね?」

 じっと王様の目を見て確認する。

 その目をちゃんと見返して、元気である、と請け負ってくれる王様。

「そうですか、良かった。 ところで、なんでここにドアが繋がらなかったんでしょう? 王様、何か知ってますか?」

 明日こそ楓に会おうと思うけど、また空を飛んでくるとしたら、時間が掛かって面倒だなと。

「さぁな、判らぬが」

 首を横に振る王様。

 王様でもわからないか、もしかしたら楓が何かの魔法を使って、その弊害でドアが繋がらなくなったのかと思ったんだけど。


 王様も忙しいだろうから、立ち話もこのくらいにしておかないとね。

「そうだ、明日なら楓、お城に居ますか?」

「……さぁてな? 余はカディを監視しているわけではないからの」

 それもそうですネ…。


 さっきから突き放されたような言われ方ばっかしてる気がする、仕事の邪魔してるからだろうか?

 むぅ。

 まぁいいや、楓が居ないなら用も無いし。


「お忙しいところ、ありがとうございました」

 礼を言ってガラス戸に手を掛ける。

「……何処から帰る気だ?」

「空から?」

「…飛べるのか」

「飛べますよ?」

 というか、さっきも”飛んできた”って言わなかったっけ?

「そうか…飛べるのか……」

 空を見上げ、感慨深そうに呟く王様。

 なんか疲れてるっぽいなぁ。


 ベランダまで見送ってくれた王様に、折角だから光学迷彩はなしで飛んでみよう。

 大丈夫だよね、弓で落とされたりしないよね(鎖が有るから防御は大丈夫だと思うけど)。

 操駆して、軽く浮く。

「じゃ、時間余ったんで、折角だから観光してから帰りますねー、ありがとうございました」

「え、ちょっと待て!」

 飛び去ろうとしたところを捕まえられる。


「まっすぐ、帰りなさい」

 王様がしっかりとわたしの目を見つめて、言い含める。

「は?」

 首を傾げるわたしに、王様は重ねて言う。

「イフェストニアにまっすぐ帰るんだ。 まだ、情勢も安定しておらん、危険も多いからな」

 あぁ、心配してくれて?

「大丈夫ですよ、わたしこれでも、自分の身くらいなら守れます。 心配いらないですよ」

「いや、お主が強いのは知っておる、そうじゃなくてだな。 うぅむ」

 なにやら考え込む王様。


イストーラこっちのお金持って無いから、買い食いとかはしないので安心してください」

「そんな心配などしておらぬわ」

 ちょっとお茶目で言ってみたら、素で怒られた。

 なんだろう、王様こんなに短気だったっけ?

 あれだな、触らぬ神に祟りなしだ、とっととここを離れよう。



 何度も王様に”まっすぐ帰る”ように念を押されてお城を後にした。


 えぇ、えぇ、帰りますよーだ!

 あの宰相さんから助けるのとか手伝ったのにな、もう少しこう仲良くしてくれてもいいじゃないか。

 そりゃ、王様と一般市民じゃ立場とか違うんだろうけど……むぅ。


 帰りは普通にドアを繋げて一瞬で帰れた。

 本当に、どうなってるんだろう?

 帰宅後試しにイストーラに扉をつなげようとしたんだけど、やっぱりだめだった。

 ”ドア”だから駄目なのかな。

 

 ふむふむ、じゃぁこうしよう。

 鎖を一本使って、わたしが通れるサイズの輪をつくります。

 その輪に魔法を掛けます。

「”輪よ繋がれ、楓のところへ”」

 ただ部屋の向こう側があっただけの輪の向こう側が、あきらかに雰囲気を変えて…あ、楓発見!

 喜び勇んで輪を通り、鎖の円を解いて楓の元へ駆け寄ろうとすると。


 ガキンッ!


 鎖が自動防御して、わたしに向かって振り下ろされた剣を止めた。

 

 キンキンッ…ガキンッ!

 

 断続的に、わたしに襲い掛かる剣。

「待ちなさい! その人は私の友人よ!!」

 焦るような楓の声に剣は止まり、わたしの周囲に展開していた聖騎士の人たちが一定距離まで離れた。

 …急に襲い掛かられてちょっと驚いた。


 反撃しなくて良かったよー!


「…どうして、来たのよ」

 低い声で楓がわたしに尋ねる。

「うん。 楓、学校どうするのかと思って。 さすがにこっちに来っぱなしっていうわけにもいかないでしょ? けど、このままこの国を放置することも無いだろうから。 放課後とか週末だけとかこっちにするのかと思って。 その確認?」

 まだ数日しかたってないから、秀也の時みたいにインフルエンザとかなんとか言って誤魔化せばいいよね。

 と言ったら、楓は疲れたようにため息を吐いた。

「イストーラは今、改革の真っ只中なの。 そんなときに私が抜けるだなんてありえないわ」

 ……?

 言われて、周囲を見回す。

 森ですよね、あぁ、まぁ、ちょっと離れたところから火の手が上がってますが、それは放置でいいんでしょうか。

 で、森の中で、改革?

「楓は、その改革で何をやってるの?」

「……っ、そんなのは、良子には関係が無いことでしょう。 私は帰らないから」

 帰らないって言われても…。

「もう私のことは構わないで、私は大丈夫だから。 こっちのことにケリがついたら、良子の所に必ず顔をだすし」


 ……。


「ねぇ、楓、聞いていい? たかが女子高生に、どんな改革の手伝いがあるの? それもこんな森の中で、聖騎士の人たちまで引き連れて……そんな殺伐とした顔して。 まるで―――」

 言いかけた言葉を飲み込む。


 眉間に皺を寄せこわばった楓の顔を見て、それ以上言えなくなった。

 唇を噛む楓との数歩の距離をゆっくりと縮める。

 囲んでいた聖騎士の人たちが警戒したけど、何も言われなかった。


 腕を大きく広げて、楓を抱きしめる。



「楓、わたしはこの世界でディーと生きていくことに決めたんだ。 だからね、いつでもこっちの世界から扉を作ってあげられるよ。 ウチの家族も何度もこっちの世界に来てるし」


 少し腕を緩めて、楓を見下ろす。


「疲れたときはわたしのところへおいで、ね?」




 背中に楓の腕が回されて、ぎゅうと抱きしめられた。


 肩口に顔を埋めた楓が、小さな声で「ありがとう」と応えてくれた。



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