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035 昼行燈と魔女

 とあるマンションの一室。

 カーテンが閉め切られた薄暗い部屋の中、モルガナは身の丈ほどある大きな鏡を前に立っていた。

 鏡には映るべきモルガナの姿が映っていない。代わりに、厳つい鎧姿の中年男性が映っていた。


「見えているわね? 将軍」

「おう、良く見えてるぜ」


 モルガナに将軍と呼ばれた男は、短く刈り揃えられた顎髭を指で撫でている。

 この男こそが魔王軍四天王を束ねる長、ジルコンである。最も、本人には四天王の長としてのやる気はない。そのやる気のなさが現れている様な、どこか眠たげな顔付きでジルコンは低く唸った。


「魔女さんよ。本当に出来るのかい。鏡を通じて次元を繋ぐなんて芸当がよ」

「今こうして鏡を通して会話が出来ている。それが何よりの証明になるのではなくて?」

「会話と生身で行き来するのは違げぇだろ。俺は無駄に長い事生きてるけどよ、聞いたこともねぇのさ、そんな話は」

「それは当然よ。私の手により作り出されたばかりの、最新の魔法ですもの」


 なるほどと頷いてジルコンは肩を竦めて見せる。


「で、俺はこっちで何をすりゃいい?」

「こちらの満月の夜、魔法を発動させるわ。その時に邪魔が入らないよう、見張っていてちょうだい」

「分かった。戻るのは魔王の嬢ちゃんだけなんだな」

「そうよ。一人分の魔力の確保で手一杯。まぁ、魔王サマさえ戻ればそちらは安泰でしょう?」

「どうかねぇ。嬢ちゃんのやる気次第だろうよ」

「どちらにせよ、そちらに魔王サマを送り込んだ後のことは任せるわ」

「へいへい。ま、こっちのことは心配すんな。あんたはあんたの仕事を成せばいいさ」

「言われずともそのつもりよ」


 高圧的な態度で会話を終わらせると、モルガナは鏡に送っていた魔力を断ち切った。

 鏡は本来の機能を取り戻し、モルガナの姿を映し出す。

 鏡に映った自身の姿を見ながら、モルガナは深くため息を吐き出した。


 のらりくらりとしたジルコンの性格は、モルガナにとっては苛立ちの対象に他ならなかった。ジルコンはその性格上、決して力を誇示することはない。しかし魔女どころか魔王すらも恐れぬその振る舞いは、確かな強者の証である。

 力を持ちながらも昼行燈の如き生き様を見せる男。

 常に自らの好奇心に生きるモルガナとは真逆に位置する存在だとも言えた。


(……魔王サマのやる気次第、ね。今の彼女にそんなものは無いわよ)


 不機嫌な顔でソファに腰を下ろす。

 大人三人程度が座れるであろう大きさのソファが、モルガナの体を受け止めて軋んだ。背もたれに背を預け、モルガナは天井を見上げる。


(お可哀そうな魔王サマ。あんなにも一生懸命なのに何も届かなかった。あいつも本当にイヤな男ね)


 間近で見ていた薔薇(ローズ)とシリウスのやり取りを思い出し、モルガナは目を閉じた。

 シリウスに決別を告げられ愕然とする薔薇(ローズ)の姿は、魔王軍四天王として仕えて以来、初めて見る姿だった。さすがのモルガナも哀れみを感じたが、興味はすぐに他所へ移る。


(……まぁ、お陰で次元転移術を新たに組む機会を得られたから良いのだけど。フフッ、満月の夜まで後一週間。楽しみね)


 元から存在する次元転移術を改変し、この世界から向こう側の世界へ次元を超える魔法。

 新たに作り上げた魔法の実践こそが、モルガナにとっては一番の関心事となっていた。

 出かけた薔薇(ローズ)が戻らない事など微塵も気にならないほどに。

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