表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/42

032 勇者として

 夕飯をしっかりと胃に納め、早々にシャワーを浴びてパジャマに着替える。

 自室に戻って晴太はベッドに飛び込んだ。

 寝つきの良さは一級品である。目を閉じ三秒。即座に夢の中に落ちていった。




「出てこい! 勇者!」


 澄んだ青空と、どこまでも広がる広大な草原。

 足元にやけにリアルな風に揺れる葉の感触を感じながら、晴太は声を張り上げてシリウスを呼んだ。晴太が自発的にシリウスを呼んだのは、これが初めての事だった。


「此処だよ。晴太」


 背後から声を掛けられ、晴太は勢いよく振り向く。

 どこか沈痛な面持ちで立ち尽くすシリウスに、晴太の苛立ちは更に募る。


「おっ前、薔薇(ローズ)ちゃんになにしたんだよッ! 返答次第じゃ、タダじゃおかねーぞっ!」


 今にも食って掛からんという勢いの晴太を前にしても、シリウスの顔付きは一つも変わらない。怒り心頭と言った様子の晴太の顔を見据えて、シリウスは重たげに口を開いた。


「対話を。魔王の策略で、僕は意図せずして表に出てしまった。だから終わらせたんだ。君とこの次元を巻き込む魔王の妄執を」

「終わらせたって……お前、まさか薔薇(ローズ)ちゃん振ったんじゃないだろうな!?」

「振るもなにも、始まってすらいない。僕と彼女は勇者と魔王だ。それ以上でもそれ以下でもないよ」

「ッ!!」


 降って湧いた衝動に駆られ、晴太の体が動く。

 一歩大きく前に踏み出して、伸ばした左手でシリウスの胸倉を鷲掴む。眉間に深い皺を寄せた晴太は、シリウスをきつく睨みつけた。


薔薇(ローズ)ちゃんがどんな思いで! こんな世界まで来たと思ってンだよッ!」


 晴太の叫び声にも似た怒声を浴びても、シリウスは眉一つ動かさない。

 不覚にも勇者の意志の強さを感じ取り、晴太はぎりと歯ぎしりをした。


「……彼女の思いは愛なのかもしれない。でも、僕が知る愛とは違う」

「そりゃテメェの決めつけだ! 愛に種類なんてないだろっ!」

「そうかもしれない。けれど愛する相手のことを想わぬ愛は、僕には妄執としか呼べないんだ」

「ッ、それは……! 薔薇(ローズ)ちゃんが一生懸命なだけだ! 薔薇(ローズ)ちゃん、人間が嫌いみたいだからさ……碌に知らないンだよっ、そういう、人間の愛し方みたいなやつを!」


 言いながら、晴太はひどく泣きたい気持ちになっていた。

 薔薇(ローズ)を否定されることは自身を否定されるに等しいのだと、晴太の胸が痛む。


 晴太は女性全般が好きである。女性に向ける好意が一方的なものだという自覚もあった。

 だからこそ薔薇(ローズ)がシリウスへ向ける愛が一方的であることも理解している。理解したうえで、その愛の在り方に自身と似通うものを感じていたのだった。


薔薇(ローズ)ちゃんと話し合うンじゃないのかよっ、そう思ったんだろ! 俺の体貸してやる! 本当は嫌だけど、薔薇(ローズ)ちゃんの為だからっ」

「駄目だ、晴太。僕は決して君の体を使わない。もう表には出ない。晴太、終わったんだよ。あの決戦の場で、勇者と魔王は死んでいる。……僕はあの世界の勇者として終わりたい。それが僕の望みなんだ」


 シリウスの顔が悲痛に歪む。

 生粋の勇者。魔王を打倒し、世界に平和をもたらす者。

 その生き方を曲げることは、シリウスには不可能である。


 決して崩す事の出来ない意志を前にして、胸倉を掴む晴太の手が緩んだ。

 返す言葉もない晴太にシリウスは告げた。


「……もう僕は君の夢にも現れない。さよならだ、晴太」



 夢の終わりはいつも唐突だ。

 白く溶けていく視界と思考。

 晴太は吐き出す様に、チクショウと口にするだけで精一杯だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ