8 お手洗い事情
夜がやってきた。
僕はまだ座っていた。
なんて幸せなんだろう。
朝から何もしていない。
そんなことが許されるなんて。
全身の筋が弛緩し、心も解放感に満たされている。
次第に気温が下がっているが、少々肌寒い程度だ。
しかし僕は別の寒気に襲われて始めていた。
尿意である。
昼からトイレに行っていない。
ここは学校ではない、草原である。
なんなら異世界かもそれない。
そもそもトイレなんてあるのだろうか。
さっきの爺さんに声をかけて聞いてみる?
言葉通じなくて、意思の疎通に苦労するだろう。
爺さんが立ち去って随分時間が経過している。
探すのも大変だろう。
というか立って周囲を見に行くなんてだるい。
しかも人と話すなんて気苦労はいかばかりか。
このまま放心していたいが、出さないわけにはいかない。冷や汗がでてきた。
本当はこのまま催してしまいたいが…
垂れ流しは服の替えがないのでなしだ。
臭いも濡れた服を着続けるのも不快だろう。
僕は周囲を見渡す。
誰もいない。何もない。
僕はおもむろにズボンのチャックをあけ、そのばで用をたした。
水音がし、爽快感が広がる。
そして出し切るやいなや、僕はチャックをしめ、横にごろごろ転がった。20歩程度離れたところで落ち着く。
両手両足を広げた。
気持ちいい。上を見れば、満天の星。
見たことのないたくさんの星に、少し心細さを覚える。
ここはどこなんだろう。
分からない、分からないけど。
僕は人生の中で今が一番快適で幸せだと思った。