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6 僕の欲望
どういうわけだか分からないが、僕は屋上から落ちたはずなのに、ここは学校ではない。
川谷が言うように、別の世界に来たのかもしれない。
ということは。
目を見開く。こめかみを汗がつたった。
もう、何かを急かされることはない。
もう、時計を見て忙しなく動く必要はない。
誰かの顔色を伺わなくても良い。
誰かとペアを組んで、嫌な顔をされたり相手の心中を慮って萎縮することもない。
空気になることに徹しなくても良い。
異常に周りを気にすることもない。
高校生の普通を推しはかり、それらしいものを装う必要もない。
学校に行けと言われることもない。
学校に行かなくても良い。
やらなければならないことなんて、何一つない!!
口角が自然と上がる。
僕は大の字で草原に飛び込んだ。
幸い気候は暑くも寒くもない。
日は相変わらず低い。日差しも弱く眠気を誘う。
気がいつになく緩んでいた。
伸びをした。
草原はどこまでも広く、空はどこまでも高い。
いつ頃ぶりだろうか、僕は何一つ心配に思うことなく、幼子のようにすとんと眠りに落ちた。