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3 うまれかわり願望

 休み時間になった。

 僕はそそくさと弁当を片手に教室を出る。

「どこに行くの?」

 のっぽの男子生徒、名前は覚えていないのでAとしよう、がすれ違いざまに聞いてきた。


 僕は思わず振り返った。

 Aは少し驚いたようで目を見開いていた。

 その目の中に自分を見つける。

 表情までは見えないが、驚き、怯えを含んだ滑稽な顔なのだろう。


 僕は、そう、驚いていた。

 僕、という存在があったということに。

 僕は空気だと言うのに、認識されていた。

 Aの目の中には僕がいる、僕を捉えている、僕はここに在る。

 肌が一気に粟立つ。


 僕は唇を動かした。ほんの少ししか開かなかった。掠れ、歪た音が出たように思う。

 相手に伝わったかどうかは定かではない。

 僕は足早に逃げるようにして屋上へ向かった。


 屋上は昼休憩の際、混む。

 仲間同士で集まり賑やかになる。

 しかし3時間目の休み時間は当たり前だが空いている。休み時間は短いのでそもそも人は寄り付かない。

 

 この時間に弁当を食べるのが僕の日課だった。 

階段を上がると、男子生徒の後ろ姿が見えた。柵によりかかっている。

珍しく先客がいた。だが相手も1人だ。


 僕は気にせず弁当を広げる。

 しばらく食べていると、金属音がして目を向ける。男子生徒が柵をまたいでいた。

 

 僕はしばし、思案する。

 結果、空気と化すことにした。

 口を数ミリ動かすだけにすることで咀嚼音を防ぐ。

 そして半目になる。


「何それ、俺のことはどうでもいいってこと?

俺のこと馬鹿にしてる?」



 ……なんと、逆効果だったらしい。


 争いを避けるため、目を開く。

 柵の奥に、見たことのある人物が立っていた。

 クラスメイトのあの机の持ち主だ。


「俺のこと、覚えてる?」


 僕は他の誰かに言っているのかもしれないと思い、沈黙する。


「ねえねえ、さっきからなんなの、それ!」 

 どうやら僕に言っているようだった。


 念の為自分を指差す。

「そうだよ!ふざけてるの?」

随分、記憶の中の奴と違う。もっと温和で腰の低い奴だった。クラスメイトと話すときは、だが。


 つまりはそういう奴だったのだろうか。

 人によって態度を使い分けるという。

 ちょっとがっかりだ。

 

「もー、また反応なしなの!? あー、もういいや、こんな奴。俺は俺の目的をはたすのみだ。」


 もう、僕に関心はないらしい。

 それは良いことだ。

「って、何、飯食ってんだよ!!しかも入れすぎだろ!リスか!!」

 口におにぎりを頬張れば、突っ込まれた。

 いや、時間がないのだ。ただでさえこの休み時間は短い。奴の相手をしたせいで更に時間が短くなった。

おにぎりは一口で食べる一択だ。


「あー、調子くるうな。

俺が何しに来たか分かるか?

飛び降りに来たんだぞ」


 僕は怪訝な顔をしていたらしい。


「なんでかって? この世界が嫌になったんだよ。

死後の世界があるかなんて分からない。

死んだら無になるのかもしれない。

でもこの世界からは確実に離れられるだろ?」


 なんというか、究極の選択だな、と思った。


「お前だって分かるだろ?

こんな世界、楽しいか?

生きていてなんになる。

毎日苦痛だろ?

異世界があるなら、行ってみたい、そう思わないか?」


 

 


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