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2 空気

 教室に入る直前、体の中がさざめく。

入りたくないという自分と入らなければいけないと思う自分で臓器が僅かに揺すられる。

 聴覚が敏感になり、聞こえうる全ての音を拾おうとする。

 微かな笑い声ひとつに皮膚がひくつく。

 自分が笑われているのではないかと錯覚する。

 自分は空気であると思う。

 物音を立てない、そこに存在しない何かであると。

 

 自分の席に座る。

 ふと、端においやられるように教室の隅に置いてある机が目に入る。

 不登校の奴の机だ。高校2年生になって一度か二度

見たきりだ。だけど僕は覚えている。僕と違って、周りと関係を持とうとしていた。クラスメイトに何度となく話しかけていたのを覚えてる。中肉中背の低姿勢の男子生徒だった。

 奴が休みはじめて、教室の空気は少し変わった。

 僕は、どうだろう。

 僕が来なくなったら、何か変わるだろうか。

 いや、変わらないだろう。


 だいたい僕はここにいるけれど、空気に徹しているのだから、不登校の奴とそう変わらないのかもしれない。

 今日の時間割を横目で見る。今日は話し合いやペアでの活動がなければ良い。

 誰かと組むのは心労でしかない。

 相手の反応をみたり考えたり、気持ちに少しでも触れてしまったらと思うと恐怖だ。


 なぜ、学校に行かないといけないのだろう。

 なぜ、人と関わらなければならないのだろう。

 僕に、他に道はないのだろうか。


 僕は今日もただ無為に過ごす。



 無為に過ごすはずだった。



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