11 来訪者
それから何か変わったかって?
いや、特に変わることはなく。
僕は今日も草原に転がっていた。
確かにチーズはうまかった。
今まで食べたどんな食べ物よりも美味かった。
目や皮膚、内臓が生まれ変わったようなみずみずしい感触をうけた。
頭はクリアになり、忘れかけていた、生へしがみつく本能を思い出した。
また、チーズは食べたいと思う。
あの口に広がるしょっぱさ。
濃厚でクリーミーな栄養源。
死ぬ前にもう一回ぐらいは食べてみたい。
しかし、それを上回る欲望が僕にはあった。
動きたくない。
何もしたくない。
チーズにより軽くなったと感じた体が少しずつ負荷がかかっていく。
徐々に重力に潰されるような感じだ。
海に入り、どんどん深みに沈んでいく。水圧で少しずつ体が押し潰されていく。
終いには僕はどうなるんだろう。
食欲はないわけではない。
でもそれは動く動機にはならない。
じっと動かずにいられるだけ、ずっとじっとしていたい。
僕は、いつからこんなんだったのか…。
ぼんやり考えていると、足音が聞こえてきた。
羊の群れか?
それにしては足音が少なすぎる。
そう思っていると足音がどんどん近づいてきた。
これは二足歩行の足音だ。数は1人。
僕は少し焦る。
人間なんて、苦手だ。
近くに来ないでくれ。
そう願うも、足音はどんどん近づいてきた。
そして僕の頭の僅か数歩の所で止まる。
「小林、生きてんの?」
懐かしい、自分の名前だ。
仰いで見れば、そこには飛び降りを図った生徒、名前は何だったっけ…?Bとしよう。Bが立っていた。




